01
いろいろな所で書いてある通り、こっからは外伝の内容も入ってきます。
そしてその外伝の後の話ともなってきます。
ユウという一人の少年の死から四年と半年が経過していた。彼の志を継ぎ、新たな『コルウス』となった青年──オロル・クァルトゥムは騎士団長という地位を獲得していた。
現在は人々の悪魔化問題が浮き彫りになってきている。きっと犯人であるフリードが目的実現のためにとうとう本格的に動き出したのだろう。それを止めるため、公的にフリードを追える騎士団にオロル入ったのだ。
フリードはこの世界を愛している。愛しているからこそ、その愛情は歪んでしまった。差別の無い世界を作りたいがために、数多くの犠牲を払ってまで全人類の種族を統一する。
たったそれだけのために、命を落としてしまう人が多くなってしまう。フリードの創る世界とは、まさに篩にかけた世界なのだ。
犠牲者を出さないためにも、コルウスとなったオロルは悪魔化した人間を『浄化』している。
今までは特殊な魔装に悪魔化のウィルスに汚染された魔力を吸収して悪魔化を解いてきた。しかしその魔装は今や手元にはない。だから悪魔化を解くもう一つの方法が編み出された。それがオロルの持つ光属性だ。
光属性を対象に浴びせる事で、ウィルスに汚染された魔力を浄化する事ができるのだ。従来の魔力吸収よりずっと効率的で、デメリットも何もない完璧な方法だ。
しかし問題は光属性は『稀有属性』とも呼ばれ、文字通り習得者は稀にしかいない。騎士団の中でもオロルたった一人なのだ。なので実質悪魔化問題はオロルでしか解決する事ができないうえに、オロルが一手にその役目を担わされているため彼自身負担がとても大きいのだ。
オロルは常時何事もなかったかのようにケロッとしているが、一人行う浄化にすでに心身グロッキー状態なのだ。
そんなある日、騎士団本部の団長の部屋で中年男性の怒号が飛んだ。
「団長、もう一度言ってもらえませんか……っ!?」
「何度も言わせないでくれ。僕は今の『ルーンナイツ』を解体すると言ったんだ」
中年の男性騎士──騎士副団長であるソルダに向かってオロルはそう言い切った。
ソルダは何年も騎士という仕事を続けてきた謂わばベテランだ。本来なら二年前に前の騎士団長が失脚したときに彼が団長に就任するものだと誰もが思っていた。
しかし騎士団にはある掟がある。それは団長は最強であれ、というものだった。騎士団長は騎士の頂点に君臨しなければならない存在なのだ。だから当時副団長であったオロルとソルダは激突し、オロルが勝利を収め今に至るのだ。
そもそもオロルは他の騎士からは良いように見られてはいないのだ。元々オロルは異常な成り上がりで一気に騎士副団長となったのだ。当然嫉妬と非難の目線が突き刺さっていた。それにオロルはまだ二〇代だ。団長という地位に居座るには若すぎるのだ。
今のオロルが仕切る騎士団はどこかギスギスとしている。オロルという若輩が頂点の騎士団はどこかおかしい。しかしオロルが騎士団最強なのは間違いない事なので誰も文句は言えないのだ。
そして今オロルが現在の『ルーンナイツ』を解体すると宣言したのは、悪魔化問題のオロルに対する負担軽減のためだった。今の『ルーンナイツ』を一旦解散させ、浄化の力を持つ光属性の騎士を入れた新たな『ルーンナイツ』を編成しようよしていた。だが光属性の騎士はオロルしかいない。だが実はもう一人いるのだ。その一人がソルダの頭を抱えさせ、怒りを露にさせている原因となっているのだ。
「確かにアイツならあなたの負担が少なくなるでしょう……しかしアイツは──」
「反逆者……だろ。わかってるよ」
「だったら……!」
ケント・ヒューレイン。それが今オロルが新たな『ルーンナイツ』として迎え入れたい元騎士。だが彼は二年前にたった一人の大事な人のために騎士団に反旗を翻している。それが原因で騎士団から追放──正確には自ら退団──されている。そしてオロル自身、彼の逃走に手を貸している。
そのような人物を再び騎士団に招き入れるのは、副団長であるソルダも内心気が気でないのだろう。
「それにあと残りのメンバーもです……!」
「僕にとっては最も信用に足るメンバーだと思うけど?」
オロルが提示した新たな『ルーンナイツ』のメンバーとは、オロルが騎士学校にいたときの見習い騎士団のメンバーと全く同じだったのだ。これでは反対されるのも当然だろう。
「オロル団長……あなた自分の立場わかってるのか?」
「わかっているからこうしているんだよ」
『ルーンナイツ』は騎士団の精鋭が集まっており、同時に団長の守護という任務もある。だが騎士団内部にはオロル団長である事を好ましく思わない輩が多い。当然オロルが解体しようとしている今の『ルーンナイツ』にもそう思う騎士だっている。その人達が結集してクーデターを起こせば、オロルは間違いなく暗殺される。実際クーデターの噂はオロルの耳に届いている。だからこそ編成し直そうとする『ルーンナイツ』はオロルが信用できる騎士学校時代の同じ見習い騎士団だった連中だけなのだ。
今はまだ死ぬ訳にはいかない。フリードを倒すまではどうしてもここに居座って、団長という位を利用しなければならないのだ。
全てが終われば、肩書きだけの団長などいくらでもくれてやる。
「オロル……『ルーンナイツ』はあなたの仲良しこよしのためのものではない。今あなたがこのような事をすれば、騎士団内部の反感を買うのは明らかですぞ。考え直すのです」
「ソルダ」
「? なんです?」
「キミは僕を信用している?」
「しているかしてないかで言えば、していないです。ですが、あなたは騎士団に必要だ。騎士団のクーデターで殺されるなどもっての他です。だからあなたには騎士団長として相応しい振る舞いを──」
「だったら……」
「……?」
「内部の反感を抑えてくれ」
そのときソルダは意外に思ったような表情をしていた。オロルは副団長のソルダをも『ルーンナイツ』から外している。つまり信用はしていないのだ。それはソルダもわかっているだろう。だからオロルからこんな申し出を言われるとは思ってもなかった。
オロルはソルダの言った『あなたは騎士団に必要だ』という言葉を信じる事にしたのだ。
「……いつまでもできませんよ、オロル」
「少しの間でいいよ。多くても一年だ」
「一年?」
「それまでには、絶対に決着させるから」
「は……?」
たったそれだけの期間でオロルは、今まで五年近く騎士団から逃げ続けているフリードを倒そうとしている。普通に考えたらできそうにもない。だが騎士団に居るためにこれ以上反感を買い続けるのもダメだ。もうこうするしかない。
「僕にしかできない事だから、僕がやらなきゃならない事だから……だからせめてそれまでは、ここに居させてくれ」
「……言っている意味はわかりませんが……一年、ですね? それまでは私が何とか内部の反感を留めておきましょう」
「頼む」
たった一年という間というだけで、オロルの新生『ルーンナイツ』は結成の日を迎える事ができるようになった。
●
「騎士学校の入団時期は一緒のはずなのに、随分と差がついてしまったね」
「だがこうしてまた一緒の隊にいられるのは喜ばしいのだ」
「でもオロルさんが自らウチ達を招集するなんて、すごく丸くなったっスね」
現在の騎士団長室には新しい『ルーンナイツ』の面々が集結していた。
赤紫色のセミロングの髪にとても落ち着いた雰囲気を醸し出す女性──その頭には魔人特有の角が生えている事から魔人だとわかるアシュレイ・レア・セルナード。レアの名がある事から魔人貴族であり、唯一の騎士団所属の魔人だ。
くすんだ短い金髪に焦げ茶色の瞳。大柄な男性で、魔術学園の出身であるスクード・シーフォン。彼からはとても喧しい感じが漂っている。
小柄な体躯の女性で騎士団の最年少。癖っ毛の無いロングの白い髪に緋色の瞳である事から彼女はオロルと同じ武人であるエミル・カルブンクル。彼女もまた魔術学園出身だが中退している経緯をもつ。
この三人がオロルが集めた『ルーンナイツ』だ。だいたいが同年代。だがエミルだけ少し歳が離れている。そして騎士団の中ではまだ新人みたいなものだ。だからこんな連中を『ルーンナイツ』にするオロルはバカだなんだと周りから言われている。これはオロルが望んだ事なので、その非難も甘んじて受け止めるしかないのだけれど。
「そんな言い方よしてくれよ。騎士学校に居た頃は、騎士団の内定貰うのに必死だったんだ」
確かに騎士学校頃オロルは排他的だった。それが騎士団入団の足枷にもなっていたが。
「ただ覚えておいて。キミ達が『ルーンナイツ』にいられるのは、多くて一年だ。その間までに何としてでもフリードを討つ」
フリード、という言葉で皆の顔つきが一気に変わった。
「フリードって、悪魔化問題の犯人でしょ?」
「ウチらには荷が重すぎないっスか?」
アシュレイとエミルが声を震わせている。不安なのは仕方のない事だろう。
「大丈夫。キミ達はあくまでもサポートだよ。悪魔化問題を根本から解決できるのは、光属性を持つ僕だけだ。それに僕達にはまだ仲間がいるだろ」
「連れ戻すのだな、ケントとカノンを」
含みのある笑みを見せるスクードと目を合わせてオロルは頷く。
これからオロル達は仲間を連れ戻す作戦を決行する。
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