07
次の日。
白い夢は、いつもどおりだった。
いつもどおりの広さの白い部屋。五、六人座れるぐらいの大きさのソファー。そして窓。私は真ん中に座っていて、隣にシグがいた。
今は二人で読書中で、互いに話しかけはしない。けれど気まずい雰囲気でもない。
私と彼の間には、人が一人座るには少し狭いぐらいの隙間が開いていた。手を伸ばせば触れられる、でも伸ばさなければ触れられない距離。
保たなければいけない絶対の距離。
私は結局、彼には寄りかからなかった。ただ膝を抱え続けて朝が来て、目が覚めた。
起きたら涙がだばだば流れていて、見るも無残な赤い目とはれぼったいまぶたに苦笑した。
熱が出たと仕事を休んで、一日ぼんやりしていたらなんとか心が落ち着いてきた。
ずる休みなんて学生の時以来。何にもしないでただボーっとしているというのは存外人生に必要な時間なのかもしれない。
その証拠に、今までずっと張り詰めていた何かが、ゆっくりとほぐれていくような気がした。実際問題、現状は何一つ変わらないとしても。こういう時間は大切なのだ。
大丈夫。
今の状態ならそう言える。
多分もう少し頑張れる。
夢の中のシグにすがる事は、夢にすがる事になる。
そうすれば、私はいつか現実を捨てるだろう。
でも捨てた所でどうなる?
所詮夢は夢でしかない。完全に夢の住人になるなど、それこそお伽噺だ。
結局現実から逃れられない自分に絶望して壊れるぐらいなら、最初からすがらなければいい。手をとらなければいい。
私とシグの関係は、今の状態が一番いいのだ。
ただ隣に互いがいることを認めた状態。
これ以上望んでも絶望するだけだ。恋心がかなっても、玉砕しても、結局私の結末は絶望でしかないのだ。
シグは私の現実にはいない。それはもう、確定的に明らかだった。
だって彼は、子供さえ知っている世界の国の名前を知らない。変わりに彼が知っていた大陸や国は、まったく知らない名前ばかりだった。歴史の話も少ししたけれど、昔学校で習ったものにはかすりもしない英雄譚とお伽噺のオンパレードだった。宗教も、言語も、何もかも違うのだと分かった時点で、彼の知る現実は、私の知る現実ではない事が分かった。
彼は私の願望が生み出した夢の産物などではなく、純粋に違う世界の人間だったのだ。
何故世界の違う人間が、同じ夢を見ているのか。
何故夢の世界がつながるのか。何故、何故、何故ばかり。
理由なんて分からない。原因ももちろんだ。
私達は互いの知らない世界を生きながら、夢で会う。本を読みあって、話をする。笑いあう。
もうそれでいい。それ以上なんて望まない。
だから、と私は誰かに祈る。
もう少しの間だけ、この白い夢を私から奪わないでください、と。