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白い夢  作者: 山崎 空
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02



 いつもと様子が違うもう一人。

 狭くなった部屋とソファー。

 近くなった気配と距離。

 私の意識をつつく、それら全て。


 膝を抱えて丸まるのは、自分を守っているようにも、周りを遮断しているようにも見える。一人になりたい時、心の中の自分はこんな風なんだろうかと思ったら、それがストンとはまったように感じた。


 狭くなったソファー。

 私が相手の気配を濃く感じるように、きっと相手も私の存在をいつもよりも強く認識している。それでも彼はただ丸まって微動だにしない。私の存在が邪魔なら、きっとソファーは逆に大きくなっていたはずだ。この部屋もきっととてつもなく広くなって、反対側の隅に座る相手など見えなくなっているだろう。


 以上のことから導き出した結論で、私の次の行動は決まった。

 やっぱり思いとどまった方がいいんじゃないかと思ったが、結局私は導き出した結論の通りに動いた。


 一度立ち上がって、ソファーに座りなおす。

 ただそれだけの行動。


 ぐっと近くなった存在は、触れた腕から伝わる体温でいやというほど確認できた。

 相手が反応するよりも早く本を開いて、そっぽを向く。けして顔はあわせない。それが多分最善だろうと思った。

 予想通り顔を上げたらしい相手が、私のほうを見る気配がした。

 けれど私は無視を決め込む。

 ただ、隣にいる事だけを示して彼を『一人』にする。


 


 もう一人はしばらく私を見ていた、様な気がした。じっと、戸惑いながら何かを探るように。

 でもややしてからまた同じように、膝を抱えて丸くなった。僅かな衣擦れの音と、呼吸をする音は彼が置物でも人形でもなく生きてる事を伝えてくる。

 その体が離れる気配はなく、ソファーが広がる事もない。

 

 私は、腕と腕が触れ合う距離を保ちながら、そんな彼の傍にずっと座って本を読み続けた。





 * * *





 そして次の日の夢。


 何事もなかったようにソファーはいつもどおりの大きさ。

 相手の様子と距離も、またいつもどおり。

 昨日のは別人だったんじゃないかと、そう思うほど。


 彼はソファーの肘掛にもたれかかるようにして分厚い本を読んでいた。

 こちらに視線を向けてくることもない。話しかけてくることだって、もちろんない。

 時折ページをめくる音が聞こえて、本当にすっかり元通りだと思う。


 これなら私も、気にせずにこの夢をすごす事が出来る。

 無意識にほっと息をはいた。


 崩れた均衡は綺麗に修復され、白い夢は変わらずそこにあった。

 

 そして私も、今までと同じように変わらずただ本を読みふけった。





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