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白い夢  作者: 山崎 空
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01


 いつ頃から、その夢を見だしたのかは覚えていない。

 只気がついてたら、その夢は私の日常になっていた。

 天井も床も白い部屋。窓は後ろに一つだけ。扉もなく、家具といったら部屋の中央にぽつんとおかれたソファーだけ。

 そこに私ともう一人が座っている。

 そんな夢をずっと見続けていると友人に話したら、「同じ夢を見るなんて何か運命的だね」で一蹴された。

 彼女には説明しなかった私も悪いのだけれど、別に私が見る夢は毎回何もかも同じ夢ではない。


 同じなのは白い部屋。天井も床も真っ白な。勿論窓の外も真っ白で、到底それは景色と呼べない。そして中央に置かれたソファー。色は確か茶色だったと思う。

 そして私ともう一人が座ってると言う事、それだけが同じ事。


 私達の服装は毎回異なっているし、互いに読んでいる本も又違う。それどころか、座っているソファーの大きさすら違うのだ。それに応じたように、部屋の広さも変わる。


 軽く十人ぐらい座れるときもあれば、四人がけぐらいの時もある。

 基本は私ともう一人の間に、四人座れるぐらい。

 私達は互いに隅っこに座って本を読み、顔を上げない。勿論横をみることもなく、従って相手の顔も見ない。視線は常に手元の本。時々視界のうんと隅に人がいる、ぐらいは思い出すけど、ただそれだけ。すぐに本の内容に意識は戻る。

 分かっているのは相手の性別ぐらいだ。

 私と歳がそう変わらない男。ただそれだけ。


 自分以外にもう一人座っている存在がいる。

 それなのに私は何の違和感も感じず、また相手も感じてないのだろう、夢の中ではどんなに時間が過ぎようとも互いに隣を見ることはない。


 そんな夢を見続ける。

 ずっと、もうどのぐらい経つのか分からないほどずっと。


 ソファーの隅っこに座り続ける私ともう一人は、まるで鏡に映った虚像と実像のようだった。




 * * *




 いつもどおり私は夢を見ていた。

 窓が一個しかない白い部屋の中で、ソファーの隅っこに座りながら本を読む。気がつくとその体制なので、自分がいつその夢を見始め、また本を読み始めているのかは分からない。

 読んでいる本は新しく買ってきた本が主で、文庫からハードカバーから、一度読んだ内容をもう一度じっくり読み直してる。しばらく本を買ってない時は、もっている本の中でもお気に入りのものが手元にある。


 さて、いつもどおりだと思った夢は、実のところそうでもなかった。

 最初に感じた違和感は、隣の気配の近さだった。

 もう片方のソファーの隅には、いつもどおりもう一人がいた。

 距離は信じられないほど近く、間に一人座るのがせいぜいなんじゃないかというほど、ソファーの長さは縮んでいる。


 心なしか部屋も狭くなったように感じる、その日の夢。

 窓の外の白い色彩も変わらず、私が本を読むのも変わらず、ただ違うのはもう一人の様子と、狭くなったソファー。そして部屋。ああ、うん、窓もちょっと縮んでいるかもしれない。


 もう一人は子供のように膝を抱えて、ソファーの隅っこで丸くなっていた。膝にうずめた顔は、いつものように髪に隠れている。

 まるで微動だにしないその様は、等身大の置物か人形のようで少し怖い。そのままずっと固まっていたら、彼もこの部屋の白という色彩に染まって同化してしまうのではないか。そんなばかげた事もちょっと考えた。


 いつもならページをめくったり、息を吐いたりする音がかすかに聞こえると言うのに、今はそれすらもない。

 普通に動いているときはあんなにも気にならなかったのに、動かないだけでどうしてこんなに私の思考をひっぱるのだろう?


 気になったものの今更声をかける気にもなれなかった。

 なんとなく理解できたのは、横に座る相手が落ち込んでいる事。それぐらい。

 狭くなった部屋と小さくなったソファー。それは一体何を示すのだろう?

 この距離のせいか、いつも気にしない気配がどうしても気になる。

 微動だにしないそれが気になって気になって、本に集中できない。

 こんな事はこの夢を見るようになってからまったく初めての事だ。


 音を立てないように静かに本を閉じてから、私は改めて隣の男の様子を伺った。 






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