頑張れ! 開発者さんたち!
頑張れ! 開発者さんたち!
しばらくMacを使っていた。電源ケーブルに黒い箱がないすっきりとした美形のマック。
とても使いやすい。むしろ、電話がかかってくればMacが知らせてくれるし、スマホとの連携も便利だった。
「やっぱり、同じ仲間なんだね」
そんなことを思いながら、快適に使っていた。
ところが、必要に迫られてWindows 11のノートパソコンを買うことになった。
電源を入れて、パスワードではなく数字を設定。(変わったのね)
そして知ってるようで知らない画面が表示された。
わたしは画面の下にあるタスクバーへマウスを持っていった。
わたしは昔から、タスクバーを画面の左端に立てて使っている。初めてパソコンを買った時から、ずっとそうしてきた。
ところが、つかんで引っ張ろうとしても動かない。
「あれ?」
もう一度やってみる。
動かない。
「どこかに固定を解除する設定があるのかな?」
設定画面を開き、それらしい項目を探した。けれど、いくら見ても見つからない。
タスクバーは画面の下に居座ったまま、まるで、
「わたしはここから動きません」
と宣言しているようだった。
わたしがタスクバーを左側に置くようになったのは、初めてパソコンを教えてくださった先生の影響かもしれない。
先生は、マウスを握るわたしたちに、こうおっしゃった。
「マウスでどんどん先へ進んでしまったら、自分がどこにいるのか分からなくなります。けれど、パソコンのよいところは、今やった作業をなかったことにして戻れることです」
先生はそう言うと、マウスではなくキーボード操作で作業を進めさせた。スタートボタンを押して、横に行って下がってエンター。
ゆっくりと進める。それが心の準備、ウォーミングアップとなった。
正確な言葉は少し違っていたかもしれない。それでも、「戻ることができる」という考え方は、今もずっと心に残っている。
あれは、よい教え方だったのだと思う。
そのおかげで、ツリー表示や階層といった言葉をまだ知らなかった頃から、パソコンの中には順番や道筋があるのだと、なんとなく理解できた。
「今、自分はどこにいるのか」
「どこから来たのか」
「間違えたら、どこまで戻ればいいのか」
そんなことを考えながら操作する癖がついた。
よく「直感的に操作できます」と言うけれど、どうも、わたしの直感は、ほかの人の直感とは違うらしい。
画面を見れば自然に分かると言われても、右クリックすればなんか出てくるけれど……
「いや、分からないから困っているんだけど」と思ってしまう。
――ちなみにわたしはエディットキーを使う。腱鞘炎になったら困るから――
そもそも直感というものは、何もないところから突然生まれるのだろうか。ある程度の知識や経験があって、初めて働くものではないだろうか。
少なくとも、わたしの直感は知識という燃料を入れてやらないと、なかなか動いてくれない。
話をタスクバーに戻そう。
少し前のわたしなら、検索結果を一つずつ開いて、必死になって解決方法を探していただろう。
けれど、今はAIがいる。
「Windows 11のタスクバーを、画面の左端に縦置きする方法を教えてください」
さっそく尋ねてみた。
すぐに答えが返ってきた。
AIの答えはこうだった。
――その機能は、Windows 11ではなくなっています――
その内容を読んで、(あらまー)と思った。
「……なくなっている?」
「そんな……」
長い間、当たり前のように使っていたものが、ある日突然なくなっていた。その衝撃は思った以上に大きかった。
AIは、さらに奥深い設定を変更する方法も示してくれた。
けれど、パソコンに詳しくない人が、仕組みをよく理解しないまま触ってよい場所ではなさそうだった。
「やらない」
そこは賢く判断した。
タスクバーを縦にしたい気持ちは強い。けれど、そのためにパソコンの調子がおかしくなっては困る。
それにしても、ショックだった。
MacのDockでさえ、左右に縦置きできたのに。
「Windowsさん、どうしてできなくしてしまったの?」
画面の下に横たわるタスクバーを見ながら、ため息をついた。
ところが、ある朝、うれしい情報が画面で光っていた。
Windows 11で、タスクバーを縦置きできるようにする開発が進められているというのだ。
「本当に?」
思わず画面に顔を近づけた。
まだ、すぐに使えるわけではない。
正式に実装されるかも、いつ使えるようになるのかも分からない。
それでも、縦置きを望んでいる人が、わたし以外にもいるということだ。そして、その声に応えようとしている開発者がいる。
それだけで、少し気持ちが明るくなった。
長年の習慣は、そう簡単には変えられない。
何より、使いやすさは人によって違う。「多くの人がこう使うから」だけではなく、それぞれが自分に合った置き方を選べることも、パソコンのよさではないだろうか。
わたしは今日も、画面の下にあるタスクバーを眺めている。
慣れて来たけど邪魔に感じる。
できれば、今すぐ左端に立ってもらいたい。
「頑張れ、開発者!」
いつかWindows 11のタスクバーを左端に立てられる日を、わたしは心待ちにしている。




