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その1:明るい要害(神戸市)

見上げると空がやたらと広く見える。だから街中が明るい。


日陰が街から意図的に排除されていることも考えたが、誰がどうやって排除したのか見当もつかない。おそらく南に開けた街全体の傾斜が影を消し去ってくれているのだろうけど、そのためか、建物の影、艶のない灰色の建物が作り出す深い闇が目に入ってこないのだ。

通りに待ち伏せる影は、必ず闇に繋がっている。不意に立ち止まって、ぼんやり、しかし、じっと見ていると、闇は光を引っ張り込むように引きずって、光が照らした形を飲み込むように消していく。でも、ここには闇が少ないから、何も無くならない。どこにも隠すところや隠れる場所がないのだ。

俺は闇からやってきたから、闇が恋しくて、白っぽいコンクリートの建物の間、ガラス張りの古い商店軒下、足元の溝などに闇を見つけようと忙しなく視線を動かすが、この街にはこれいった影が無いのだ。街は人を隠す機能を持っているはずだけど、神戸の街には簡単に人を隠すことができない仕組みがあるのかもしれない。あと、街に人は多くいるが、他の大都市のように無秩序に溢れていない。どこか整然としている。密かに通りに人が溢れないような規則が出来ているのかもと思ったが、ここ、神戸市中心部の都市計画書に「人が必要以上に溢れないように時間的滞在棲み分けを行う」などの公式な記載があるようには思えない。あの阪神大震災前はもっと、街が迷路だったのだろうか?と考えようとしたが、消え去った形の復元に想像力を働かせたところで、現状の空間把握された頭の中には過去の風景は歪に映るだけだ。頭の中の写像なんてあてにあらない。

頭上に空が大きく広がるから光が地面に直接届く。だからこの街は更地の眩しさ、土というより、砂が光を反射させるキラキラとして尖った眩しさに溢れている。ミミズやダンゴムシのように闇に潜んで生きてきた俺にとっては、どうも居心地が悪い。光が景色を彩るほどに溢れているから、時折海から微弱に吹いてくる潮風にさえ空の色である淡い青色が着いているように感じてしまう。

明るさの謎を探るのに街を見渡す。気がついた点として、圧迫するような極端に背の高いビルがない。どこも十階もない低めの小さなビルが、お互いに影を映さないように並んでいる。歯並びで言えば整然としてないが、しかし、決して歪んでいない。なにしろ、ゴチャゴチャとした建物の混乱が見当たらない。あの、建物が折り重なることで出来る薄暗さ、よくわからない影、闇を作り出すジャングル模様のコンクリートの乱立、意味不明の出っ張りの間抜けさ、錆びた手すりのスリルがどこにも見当たらないのだ。

だいたい、街の闇は住人の隙である。そこに紛れてしまえば欲望から発生する悪事は白昼に出ない。それどころか無かったこととして葬り去られる。街の闇は都合が良いのだ。しかし、この街には、その都合の良い隙がない。知らぬ間に完成されているようだ。

俺は、明るさに緊張しつつ、かろうじて出来た薄い日陰の細い路地を降りて抜ける。そのうち横断歩道の白線が眩しく映る道路に出た。向こう側には高架線路の駅がある。その高架線路の下には隙間なく小さな店が並んでいたが、大阪中心部にあるような小汚いものではなく、騒音が酷かろうが、小洒落ていて見た目に洗練されている。オレンジや緑の明るい看板に派手でない装飾がされている。コンビニの電飾看板だって目立たないように設置されている。高架下に道路が通っていて、その側は少し影になった歩道があった。影に惹かれて信号が変わると、そこを目指したが、高架線は高く、街全体の溢れる光が跳ね返って、わずかに暗い高架下となっていた。影は出来るが、ここには闇は発生しない。雨宿りに来て、思った以上に雨に打たれるような損した気分をしたので、建物の中に入ろうとしたが、どこの建物も明るいが、入り口が閉じていて、そこに強い光が当たっている。光を跳ね返す入り口は、何も用なく入ることを冷たく拒否しているように感じられる。これだけ光が溢れているのに、街は人を拒絶したように白く黙っている。街路樹は見事に手入れされ整然と並んでいるが、小さな日陰と美しさを作る以外は冷たさに満ちている。大きな広葉樹の連続が、誰にも響かない街の嘆きのような小さな音さえ奪っているのではないか?

元町駅は小さな古い駅だが、天井が高く、採光が施され、壁も白いので明るい。街に行き交う人たちは燻んだ色を纏わない。白いズボンや真っ青なシャツなど、衣料量販店では見たことないような自分を表現できる服を着ている。たまにそうでない人もいるが、それは神戸ではない外部から来た人間だろう。例えばグレーのパーカーに黒いズボンの俺なんか、神戸の街では醜いシミに見えるだろう。大勢に馴染むために地味な格好をすると、ここでは逆に悪目立ちしてしまうことになる。ショーウィンドウに映る俺は山から降りた熊のように戸惑いを含んだ不気味な存在に映る。

シミが立ち止まると駅を行き交う人々から見て、どうしようもない嫌悪の対象になるから、急いで駅から飛び出た。駅の中も明るかったが、やはり外はもっと明るい。ここは街中で、ビルの谷間なのに青い空が人がって見えるし、太陽の光が降りてくる。

影が残らない街で、影になろうと駅前の植え込みがある小さな広場で、重工業勤務の労働組合員が同僚の過労死について街宣活動を行なっている。小さなハンドマイクでハウリングを起こしながら「連続勤務」「超過勤務」などと言葉をそれなりの大きな声で発していたが、街ゆく、鮮やかで悪目立ちしない良い格好した人々は笑顔で完全に無視している。誰も労働者の嘆きなんて聞こうとしない。

俺は、ここに居る理由として、街宣を聞く人になろうとして、耳を傾けるが、薄緑の作業着の男が言うことが明るい光に阻まれて「超過・・務」「無給残・・」と不都合な言葉が寸断されて聴こえてくる。まるで話の中身が入ってこない。まあ、この手の活動は中身がないことが多いのから、それで聞こえてこないのかもしれないが、それにしても、全く伝わらない。まるで街にある「負への無関心」が自分に乗り移ったかのように感じた。

なんで街が負の出来事に関して無関心だと思ったのだろう?

しかし、それは間違い無い。関心がないことで、悪いことを呼び寄せないという意思表示が街として出来ているのかもしれない。

しかし、この神戸の街で、やらないといけない仕事がある。ここで成功させて自分が同業種の中では一段上にいることを知らしめなくてはならない。これは俺の意地だ。

眩しい通りを歩く。街の隙を探し出そうと観察しながら、しかし、同時に隠れる場所を探していた。道路幅はそうでもないが、とても広く感じる三叉路に出た。目の前に大丸百貨店の建物。この町では近代的で大きな建物に違いないが、よく見ると古いデパートを小綺麗したハリボテにも見える。しかし、それは日の光を浴びて権威さえ纏っている。ただお客さんが大量に出入りしているようには見えない。洗練されてはいるが、地味で活気が無いように見える。大丸は三叉路の真ん中に位置し、右と左に道が流れるように伸びている。右は道の先が真っ青に輝いていた。海へ続いているからだ。左は実のところは一方通行の細い道と太い道に分かれていて、本当は四叉路と言うべきだが、その細い道は大きな形を把握するのに説明する必要がない道のように思えた。だからここは三叉路という形式になるのだ。実在ているが些事である存在が街にある。それは機能しているが、無視されている。まだ、この街にも隙があるように思えた。隙があるのならば、仕事に支障がない。

さっきから揚げ油のいい匂いがしている。小さな精肉店の店先には行列ができている。並んでいるのは神戸の住人と観光客だった。派手ではないが小綺麗なのが地元民、派手ではあるが、シルエットが崩れているのが観光客。街を観察すると、色々と気がついてくる。

ぐぐぐぐぐ

腹がなる。考え事をしてても、時間になれば腹が減る。行列の先を見ると。白い割烹着の店員が小さなコロッケを売っていた。観光客はその場で食べるように一つ二つと買っている。小綺麗な地元民は大きな袋に入れて持ち帰りで購入している。並ぼうかと悩んだが、20人ぐらいが常時並んでいる。美味しいに違いないが、行列などに参加すると、誰かに覚えられてしまう。

多少後ろ髪を引かれたが、コロッケを相手にせず、海方向へ進む。横道に小さな通りだが人がごった返す場所。入り口には読めない漢字が書かれた自動販売機が並んでいる。神戸中華街だ。狭い通りに人が溢れていて、両脇には屋台のような中華料理店が並んでいる。行き交う人の多さに、自分の存在を埋もれさすにはもってこいの場所だと思い、人混みに紛れた。

軒先には豚の角煮や中華饅頭などがゴシャゴシャと並べられ、中国人のおばさんたちが

「安いよ、これ、出来立て、店の中も今、空いてるよ。」

と誰に言うこともなく喋り掛けている。通りゆく人たちは足を止め、食べ物を見て、中国人のおばさんの説明を目を見ることなく聞き、店に取り込まれたり、去ったりしている。さっきの表通りと違って、活気とだらしなさに溢れている。ここは隙だらけだ。ここなら仕事の対象になるのかもしれないと考えたが、おそらく結果は大したことにならないだろうし、ましてや、失敗した時のリスクは大きいように思える。とりあえず何か食べようかと思い、一番人が少ない店に足を止めた。」

「おにーさん、今なら、座って食べられるよ。唐揚げ、角煮、ラーメン、なんでもあるよ。」

よく太った中国人の女店主が早口で捲し立てる。値段を見るとすべて五百円も行かない。安いものばかりだった。ただ、特別なものもなかった。それに、中国人の料理には八角とかの独特な匂いがあるが、ここに並んだものは普通の中華料理店のものと変わらない匂いがしていた。醤油、油、砂糖、酢、香辛料の匂い、それと生ゴミとかドブの匂いが微かにする。

「じゃあ、坦々麺と唐揚げ下さい。」

「それだけでいいか?八百七十円ちょうどね。」

瞬時に暗算の会計がおばさんの口から出た。本当にあっているのか?と思ったが、鯛しか価格でもないので八百七十円を払う。

「ちょうどね、ありがとうね、奥にどうぞ。」

奥に小さな相席テーブルが並んだところがあって、そこにはお客はそれなりにいた。だが、観光客ばかり。女性の数人連れ、老夫婦、小さな子供を連れた家族。みんな小綺麗な格好をしていたが、シルエット、色味が神戸の住人のものではなかった。チグハグで取ってつけたようで、この中華街に似合っていた。自分だってそうだった。温めの小さな坦々麺が使い捨て容器に入って湯気も立ててなくて、唐揚げの芯は冷え切っていた。中華街だからって、本格中華を期待するのが間違いなのだろうけど、こんないい加減な料理の方が本格的なのかもしれない。

その後、中華街を一通り歩いたが、アーケードのない通りは眩しいぐらい空が青く、赤や金の中華装飾が煌めくように輝いていた。ここにも、結局のところ、影が、闇がなかった。行き交う人は多い。その人たちは、異国っぽい雰囲気を楽しんでいたように思える。漢字表記、赤、金、中国人の変な日本語などが、珍しく思えたのかもしれないが、もしかしたら、外から来た観光客にとっては、神戸の整然とした街並みより、このだらしない通りの方が身近に感じられたのかもしれない。異国の人が住む中華街の方が、馴染みあるように感じられるというのは、不思議な気もするが、それは事実だろう。この人だかりは、観光客が街に身の置き場がないので集まってきたように思える。だけど、ここでは仕事にならない。

仕方がないので三叉路に戻る。行列が空いていたので口直しにコロッケを買う。一個二百五十円、親指と人差し指で輪を作ったぐらいの小ささ。さっきの中華街と全く違う価値観。しかし、一口食べると衣は香ばしく、舌を焼くぐらい熱く、強烈に牛の甘みが染みていて、美味しかった。コロッケを食べて、その凄まじさに驚いたのは初めてだ。もう一つ食べたいので再度並ぼうと思ったら、すぐに行列ができていた。それに、もう一度並んだら、店員に覚えられてしまう。それは仕事に支障が出る。

知らない街で途方に暮れるのは、よくあることだが、ここまで身の置き場がない場所も珍しく感じる。何も用がないと存在が許されないのは、どこの街も一緒だが、ここでは排除されるような窮屈さを感じる。それに、さっきから視線を感じている。誰かが見ているようだ。それはとても面倒な気がした。日本の警察というのは、怪しい部外者を見つける装置としては優秀だ。同じ景色を毎日見て、間違い探しをしているのだろう。それを躱すように練習してきたはずだけど、まだ未熟なのだろうか?それとも俺の戸惑いは隠せなかったのかもしれない。ここで足早に逃げると、この街に相応しくない人物ということを追跡者にアピールすることになる。この場合は、不意に振り返るのが正解である。こちらが追跡者に対して気がついていることを教えると同時に、追跡者がどういった人物か確認することが出来る。

「あんちゃん、なにしてんねや?」

振り返るとすぐ後ろにパンチパーマの男が睨んでいた。目と眉が細く、髭はしっかりと剃られていて、大きな顔をしている。鼻は潰れたように低くて、口は不平ばかりなのかへの字だ。白い縞模様のスーツを着ている。着こなしはやはり神戸なのか、腹が出ているが、綺麗なシルエットで着こなしている。手足も短いはずだが、長く見える。隙のないヤクザが立っていた。

「・・観光です・・。」

整然とした街並みに、整然とした格好のヤクザは悪者に見えない。それは街を維持するために機能している複雑な回路の一部のように思われる。真っ青な空、明るい街に、白い縞模様のスーツはすっかりと馴染んでいて、なぜかカッコよく見える。

「わしには、品定めにしか見えんがのう。まあ、ええわい、ちょい、事務所行こうか?」

なぜ、こういった輩は一瞬で真実に近づくことが出来るのだろうか?野生動物と一緒で、生きる勘みたいなのが、研ぎ澄まされているのだろうか?ヤクザのパンチパーマは強い日差しでツヤツヤと小さな曲線をうねらせている。それはエナメルの艶にも見えるし、まばらな白髪にも見える。

「・・知らない人に着いていくわけにはいきません・・」

「おう、あんちゃん、度胸あるなあ?わしの名前は柳田義政いうんや。これで、知った人になったのう?ええから、はよ、ついてこい!」

柳田の命令口調に命の危機を感じた。あれは、人の命なんてなんとも思ってない。大雑把に生かすも殺すも出来る力が備わっている。だから着いていくわけには行かない。俺は逃げるしかない。

「待てコラ!」

言われるがまま待つわけには行かない。逃げる時、光に向かっては逃げない。太陽を背に逃げてしまう。南に向かって開けている神戸で逃げるとなると、北側の斜面を登るしかない。真っ直ぐに登るとキツイので、東に進みながら、北に登るようになる。そうすれば、太陽に背を向けて、光を見ずに、影を追いかけられる。間違っても南に逃げてはいけない。海が終点となり、物理的にも、視覚的にも逃げ場を失う。急いで駅の方に戻る。高架線沿いの六車線ある広い道路側の石畳の歩道を走っていた。大きな道路沿いで、交通量はひっきりなしだが、道が広く、空が開けているので、都市部にある灰色の狭苦しさがなかった。それに、逃げ切るための暗い路地が、紛れ込むための影が見当たらない。光が差し込むから、狭い路地は明るく、逃げ込めば、すぐに見つかり、自分を追い詰める場所になる。整然とした明るい街には、どこにも隠れる場所がないのだ。逃げ込める場所がないままに逃げるということは、当て所なく走り続ける苦役にほかならない。広い歩道に、明るい景色が、まばらな人通りが走っているのに、揺れることなく、おおらかに過ぎていく。まるでちっとも進んでない。

石畳を走ると膝に負担がかかる。筋肉は熱を帯びて、汗がその熱を取り除こうとする。芯は焼けるばかりに熱く、表面が氷のようにひんやりとしてきた。胸が迫り上がるように、酸素が足りない。だが、よくよく考えてみれば、スーツ姿のヤクザの柳田が俺ほどに走れるはずがない。速度を緩め、振り返る。来た道も明るく輝いていて、そこに白いスーツ姿なんて見当たらなかった。横隔膜が酸素を肺に押し込めと激しく上下していたが、柳田がいないとなれば、その動き、緩めても良さそうだ。足を止めて呼吸の早くなったリズムを破って、大きく息を吸う。

「待てコラ!」

突如としての柳田の声で、驚きで身を縮める。声は後ろからじゃない。声の方向に首を曲げると、建物の間に白いスーツの柳田が花道の演歌歌手のように光り輝いていた。太陽の光が真上から降り注いでいる。柳田は顔を歪ませて細い路地から産まれ出てくる。俺は再び走り出す。先の方に高架線路が集まっている。大きな駅が見えてきた。三ノ宮駅だ。駅に入れば、高架にはみ出る銀色の電車に乗れば、ここから、恐怖の柳田から逃げることができる。三ノ宮駅に行くには道路を渡らないといけない。目の前の歩道はもう少しで大きなショッピングセンターの前を通ることになる。そこには庇がかかる。薄らとした影だ。ようやく影が見えた。しかし、その影は街中が明るいから、あまり暗くない。でも、そこに潜り込みたい。ほんの少しでも太陽から隠れたい。じゃないと、柳田から逃げ切ることができないじゃないか!

ショッピングセンターの端までくると、もう少しで日陰に入れるところに届こうとした時、ショッピングセンターからお客が流れ出てきた。広い歩道だが、これでは走り去ることができない。

「待てコラ!」

庇の下の人のバリケードの中から白いスーツの柳田が現れた。あいつは後ろから追いかけているんじゃないのか?振り返ることもなく、ちょうど横断歩道の信号が青になったので逃げるように道を渡る。六車線の道路を白い横断歩道が伸びている。俺が走っているからか、横断歩道を渡る学生、主婦、老人、サラリーマン達が道を開けた。みんな神戸の住人に違いない。服と人物のズレがないのでシルエットが美しく見える。もしかしたら横断歩道の白線がステージになって、そうみせているのかもしれないし、異様に明るい日差しが、照り返しが、街全体の白さがそう見せているのかもしれない。

道を渡ると線路高架下になる。相変わらずこちら側も歩道が広い。高架下の店は最低限の装飾しかされてなく、大阪の高架下のようなションベンがかかったような薄暗さがない。これは何の違いだろうか?それに、店は今日に限って閉まっているのか、ほとんどがシャッターが閉じられていた。まるで申し合わせたように逃げ場を無くしたようになっていた。だから、俺は、前に進むしかなかった。だが、道路を渡ったからには、柳田も直ぐには追いつけまい。肺の膨らみと腹の往復運動が合わなくなりつつあった。ちょっと休もう。

「待てコラ!」

振り返ると柳田は高架下の商店街のシャッターを開けて出てきた。いつ、どうやって道路を渡ったんだろう?どちらにしても、追跡者が現れたのなら、逃げるしか選択肢はない。俺は必死な顔をしているに違いない。足は絡まるほど回転して、明るい景色は飛ぶように消えていく。しかしながら、白昼堂々、大通り沿いをヤクザに追っかけられる俺を見て、通りにいる誰もが助けようとしない、関わろうとしない、それどころか見ようともしない。スマホでこっそり撮影する人もいない。無視は意思表示に違いないが、ここまで連帯した意思表示を街中がするなんて、どうかしている!

三ノ宮駅前に着いた。駅に入ろうとしたが、駅の方から人が溢れ出てきた。流れをかき分けて進むことができないほど密度が高い。どこに居た人たちだろうか?立ち止まって迷ったが、仕方がなく駅には向かわず駅前を横切る。駅前ぐらいから背の高い建物が増えてきた。身を潜める影ができるはずだと思ったが、大きな道路、国道二号線が駅の正面から合流して、駅の先は十車線の本当に広い道路になり、さらに空からの光が降り注いでいた。こんなに明るい広い道路では隠れることはできないと、左の道に避けようとしたら、突如白いベンツが現れる。行き先を塞ぐように斜めに止まった。運転席の窓が降りると

「待てコラ!」

パンチパーマの柳田が乗っていた。あいつはいつ、ベンツに乗ったのだろう?車で追いかけられるとなると、歩道が自分の身を助ける場所になる。仕方がないので、横道にはそれず、大通りの歩道をひた走る。大きな建物が増えてきたので、景色が過ぎる速度が落ちた。足は止まってないが、自分が止まっているような錯覚がある。柳田のベンツがマラソンの先導車のように大通りの端をゆっくりと追いかけている。

「待てーコーラ♪まあてコラー♪まーてーこおおらああ♪」

コブシを効かして歌ってやがる。だが、茶化した笑いはなく、真面目に歌ってやがる。もし、ここで足を止めて、白ベンツに向かえば、柳田は車から降りて走って追いかけるだろう。それも神出鬼没に驚かせるように追いかけるのだ。だとすれば歩道で八割の力で走っていた方が安全に違いない。もし、道路に出ればあのベンツは弾き飛ばす勢いで襲ってくるに違いない。ここは駆け引きだ。均衡を保てる間は、それを継続して、どこかのタイミングであいつを引き離し、逃げる。そんなのは、これまでの人生で何度も経験してきた。うまく逃げてきたんだ。タイミングの見方は、そんじょそこらの連中より長けている。自分を信じるんだ。

俺は一定の速度で走り始める。柳田も速度を合わせてきた。俺は徐々に足のスライドを小さくする。ベンツが横に並んだ。その隙に逆に切り返し、三ノ宮駅に急いで引き返す。片側五車線もある道路で車は切り返せないし、逆走もできない。柳田は次の信号まで急いで、こっちに引き返すしか方法はないが、それだと時間がかかるだろう。俺の勝ちだ。

だが、振り向くと太陽を見ることになる。それは真上に位置したが、さっきまで姿を見ないで済んでいたが、背中でなく、体前面で光を浴びることになった。熱い光線が体の芯まで到達するように感じる。これでは隠し事はできない。

「待てコラ!」

お馴染みの柳田の声に焦りが混ざった。奴はベンツの窓から怒りと困惑が混ざった顔を晒していた。ざまあみろ!太陽の光線を全身で浴びて、新しい街に一歩踏み出すように駆け出す。なんだか勝利を手にしたようなウキウキした気分になった。駅に向かおう、こっから逃げよう。大阪に戻ろう。

「待てコラ!」

目の前に迫ってくるヤクザ。白いスーツ、パンチパーマ、大きな顔。どう見たって柳田だ。あいつはベンツに乗っているのんじゃないのか?どちらにしろ、柳田に向かっていくわけにはいかない。踵を返し、太陽を背に向ける。何か無駄に逆戻りしたように感じて、損した気分だ。振り返ろうとしたが、尖った革靴が石畳を蹴る音は聞こえてきている。柳田は白いブルドックのように俺を追いかけているのだ。意味がわからなかったが、追いかけられているという事実だけは在る。

「待てコラ!」

横から声が聞こえる。機嫌の良い柳田がベンツから顔を出して並走している。はっ?どうしても気になって振り向くと、スーツ姿の柳田が走って追いかけている。ベンツの柳田、ブルドック走りの柳田。柳田が増えた。いや、ヤクザというものは同じように見えるのかもしれない。パンチパーマと細い眉とデカい顔が匿名性を作り出しているんだ。でも、同じ白い縞のスーツを着るだろうか?よく見ると、ベンツの柳田は紫色のシャツを着ている。ネクタイは白い。走る柳田は濃い緑のシャツを着ている。ネクタイは山吹色だ。二人は全部同じではない。しかし、似ている。駅前の演説してた作業着の男の工場では、月産三千体の柳田の製造に成功したのかもしれない。メイドイン神戸のヤクザ、柳田義政が全国の主要都市に出荷されているのではないか?

「待てコラ!」

ついには横からスクーターに乗った柳田が現れた。それもいきなり俺の目の前に出てきた。スクーター柳田は出る場所を間違えたのを自覚していたのか、表情が固かった。俺はそのまま衝突すると柳田と絡み合うことになるので、飛んだ、そして足を突き出した。ライダーキックの体勢で勢いよく白いスーツに飛び込んだ。大きな衝撃、揺れる景色、俺の足裏が重い柳田を歩道に弾き飛ばす。薄緑色したスクーターは倒れ込み、ジャンプした俺の下で直送する勢いが地面に張り付き、行き所なく側面を下にクルクルと回って止まった。柳田は歩道に倒れ込み、白いスーツが敗れていた。俺は地面に着いた足を掻くことができたので、飛行機の着陸のように体勢を崩さず、地面に戻ることができた。一瞬の出来事を見事に収めた自分を褒めてやりたかったが、そん暇はなく、急いで引き返してスクーターを立たして乗り込む。もう走れない。乗り物があればそれに乗ったほうがいい。とにかく逃げるんだ。

スクーターはウインカーが割れていたし、ボディー横も擦れて薄緑色が剥げて、白い樹脂の元地が見えていたが、歩道をまっすぐと走った。ブイイイイン、2ストロークの甲高い音、古いスクーターだが、今の4ストロークのスクータよりは断然早い。

スクーターで歩道をそのまま走ろうと思ったら、街の人たちがワラワラと寄ってきた。ヤクザからスクーターを奪ったわけだから、そりゃ、足止めをしようとするだろう。そうなると、仕方がないように白いベンツが待つ国道二号線に出るしかない。支流から本流に流れ込むように、ヌルッと本線に出る。直ぐ後ろに白いベンツが迫って来ている。アクセル全開で六十キロ、明るい通りは、空は大きく広がっている。俺に白い翼が生えていれば、どこへだって逃げることができそうだが、そんなものは生まれてこの方、生えたことがない。ずっと地面にへばり付いていたんだ。だからこんな事になったんだ。わけわからんヤクザに追いかけられている。なんなんだ!

「待てコラ!」

工場で生産されているのか、柳田は同じセリフしか喋れない。もしかしたら「待てコラ!」は柳田変換すると全く違う意味なのかもしれない。「遊ぼうよ」「愛している」とかもっとポジティブな意味が・・

ガン!

スクーターを通して激しい衝撃が俺を道路に叩きつけようとした。ハンドルを強く握って耐えた。柳田ベンツが追突して来た。「待てコラ!」はその意味に違いない。心臓が干上がるような締め付け、恐怖が体の芯から広がっていく。だが、恐怖よりも大きな感情が湧き出てくる。怒りだ。無性に腹が立って来た。俺の命を脅かす柳田に対する怒りがほとんどだが、もっと大きなものがその後ろに隠れている。これまでにあった気に入らない何かに違いない。何が気に入らないか?解っていたらこんな事にはならなかっただろう!

ベンツは容赦しない。何度も衝突の衝撃に襲われたが、なんとか耐えた。信号が変わろうとしている。道路看板に色々と表示が見えたが「新神戸駅」の名前を見逃さなかった。駅があれば、ここから逃げることができる。急いで山の方向にハンドルを切る。ぶつけ損ねたベンツが前のめりに道路を去っていく。ブレーキランプが光っていたが、もう遅かった。あいつは俺を逃した。ざまあみろ!二号線を曲がると山に向かって太い道路が伸びている。遠くに幾つにも道路が分かれていて、ピンボールの球になったように、その枠に翻弄されそうになりそうだ。少し進むと、いきなりトンネルの入り口が現れた。真っ暗闇の入り口が口を開けて待っている。周りにはクリスマスツリーのように標識の列が並んでいる。あのトンネルはどこに向かうのだろうか?目の前で道路が分かれている。トンネル行きか、まっすぐ進んで駅行きか。トンネルに惹かれたが、ここから逃げないといけない。でも、トンネルには何が在るのか?迷っているうちに中央分離帯が目の前に迫って来た。

「待てコラ!」

その声に驚き、無意識にハンドルを切った。分離帯への衝突は間一髪免れた。俺は開いた穴、影の集結、暗闇の深淵であるトンネル方向に走っていく。暗い穴が迫ってくる。俺は、その口に飲み込まれていく。一瞬、左上を見た。駅へ続く道に白いベンツが走っていく。柳田のベンツだったのだろうか?そう思った瞬間、空がいきなり遮断された。太陽の光が溢れる神戸の明るい街から切り離された。

トンネルに入ると、二車線分の広さの道路に、一車線は斜めの白線に覆われていて、一車線を真っ直ぐ走ることになる。太陽から隠された砦、その薄暗さが心地よく、薄暗いオレンジ色の水銀燈の光は夢の中の景色を思い出させた。トンネルは先が見えないほど続いていて、頭上に一定間隔で連続の水銀灯が流れていく。それは永遠に続くような繰り返し動画のような心地よさがあった。ただ、空気は澄んでいない。埃っぽく、雨上がりの道路のような匂いがする。それが口の周り、鼻の穴を塞ぐように蔓延して、走行風は吹き飛ばさず、不快な空気を巻き付けてくる。それと地鳴りのようなゴゴゴゴゴという連続音が反響して響いてくる。ヘルメットを被ってないから余計にそれが大きく聞こえる。

でも、この滑らかな暖かな空気は、非常に俺に馴染む。エンジンの甲高い音も足元でくぐもったように響いていて、それが体の中の液体の流れを震わせて、ひどく気持ちが良い。物理的な息苦しさはあるが、さっきまでの精神的な息苦しさはここにはなかった。地下の居心地の良さ、石の裏に潜む虫たちの記憶、地面からの真っ暗な力、そして、暖かさ。

地下は暗くて冷たいものだと思っていたが、このトンネルの中は、いくらスクーターを飛ばしたところで体が冷え切らない。暖かい霧の中を、夜明け前の寝床の暖かさを感じならが、意識を周囲の暗さと暖かさに混濁させていく。

でも、一体この暗闇はどこまで続くのだろう?

心地よいが、出口のない暗闇を進むのは、やはり、警戒してしまう。非可逆の罠に取り込まれ、二度と元に戻れない恐ろしさがある。しかし、暖かで薄暗いトンネルの快楽は、体の中を蝕んでいく。闇が体の中心から広がっているに違いない。

ぼわあああ

音が大きくなった。目の前の道路が目の前に行き先が、決まりきった流れ着く場所にたどり着くように、連続が打ち切られ、さらに広いトンネルに流れ着く。横を見ると、トンネルの壁が柱の連続に変わって、その向こうに同じようなトンネルが存在した。二つのトンネルが合流した。四車線の大きなトンネル、オレンジの光は同じ感覚で連続していたので、広くなった分、薄暗さが増す。地鳴りのような連続音が空気を揺るわす。暖かさが少しだけ下がったのを肌が感じた。先は薄暗くなった分、さらに見えなくなった。広いトンネルが先も見えないほど真っ直ぐに続いている。

四車線の広いトンネルの真ん中あたりを走っていたが、サイドミラーに眩い光が反射する。後続車が現れた。ここは公道であることを今更思い出させた。トンネルに荒いエンジン音が鳴り響く。後ろからやってくる車はものすごい勢いで迫ってきているのだ。死を感じさせる恐怖が背後に迫ってきている。心地よさが吹き飛ばされ、心臓が退いた血の気をマネージメントしようと出鱈目な鼓動を開始する。苦しさが増してくる。でも、背後の車は勢いを緩めない。背中にエンジン音がハッキリと聞こえる。殺す気だ。

だが、車の音は背後から逸れた、右側に移ったのだ。痺れを切らして車線変更をしたのだろうと思った途端、視界に白いベンツの側面が見えてきた。うっかりしていた、まだ、奴の追跡は終わってなかったのだ。

「♪待てコラ〜、待てこら〜、まてこら〜ああ〜、もーすぐーここはー黒〜い闇〜♪」

柳田義政は左ハンドルの白いベンツから顔を出して、聞いたことがあるような歌の節で替え歌を歌う。窓から左手をダランと出して、手元の時計がキラリと光る。柳田は地獄からの使者なのだろうか?だが、これまでの追跡で見せたような厳つい雰囲気は無くなっていた。もう、俺のことを解放するのだろう。その証拠に窓を閉めると白いベンツは風が巻き起こるほどの物凄いスピードでトンネルの奥に消えていった。

あいつはなんだったんだ?

しかし、しつこい追跡は終わった。よくよく考えてみれば、あいつは神戸の街からすれば正義の使者に違いない。なにしろ、物色中の泥棒である俺を追い出したから。やはり泥棒は薄汚れてダラシない街でこせこせやった方が間違いない。大阪に戻ろう。

だが、戻ろうにも、まずはトンネルを抜けないといけない。これは長いトンネルだ。だが、神戸の住人である柳田が先に進んだのならば、どこかに出口があるはずだ。もし、出口のないトンネルがあるのなら、それは、もはやトンネルではない。

先が薄暗くなってきた。音が響き渡る。空気圧が変わった、温度が下がる。薄暗い中、開けた。また他のトンネルと合流したようだ。端々のオレンジ色の水銀灯が小さく見える。おそらく十車線はあるだろう、見たことがないような広いトンネルだ。水銀燈は弱々しく両側に並んで、真ん中に集中していく。真夜中の着陸時の滑走路のようだ。規則正しく、光の粒が並んで、続いて、小さくなっている。ここは宇宙の真ん中か?

グ、グググ、バイーン、プス

スクータが息絶えた。ガス欠だ。倒れる前に足を地面に着く。そこでヘッドライトが消えた。その途端、暗闇が増した。セルボタンを押したがダメだったので、スクーターを押して、広いトンネルの端に向かう。その途中、車が二台通過した。手を振ったが、二台とも猛スピードで走り去り、轟音の響きしか残らなかった。

トンネルの端、煤けた内側の壁、蒲鉾のようなアーチのトンネルは支柱もなく天井を支えている。真上のオレンジ色の光は明るいが太陽には敵わない。トンネル向こう側のオレンジの列は儚く並んでいる。神戸の地下にこんなトンネルがあるとは思わなかった。北側にまっすぐ伸びているの、この池上に神戸の街はないのかもしれない。六甲山の中腹の方だろうか?有馬温泉の下あたりなのかもしれない。もしかしたら、ずいぶんと走ったから、大阪の地下まで来ているのかもしれない。

「さあ、どうしよう?」

独り言を言うが、誰も聞いてくれるはずもない。こんなトンネルで車に乗らずに道端で座っているなんて、世界に存在しているが、居ないのと同じなのだ。

「オイデヤ、コッチヤ」

声にならない声が聞こえたような気がした。音は空気の振動だが、ちっとも震えずに、ただ、発せられて、行き着くところがなく阻まれているが、俺の耳が感じたような声だった。周囲を見渡す。薄暗いトンネル、暗くてハッキリと見えないが、何か居る。

「ヤッパ、キコエトルンヤネ。キミモナカマヤ。」

何かがいる。話しかけられている。でも、暗くて見えない。だが、よく見ると薄らとした影が近くにあった。先が丸くて、何か長四角が下に続いて、最後に二つに分かれる。形のバランスが悪い人影だ。でも、暗いのか、よく見えない。しかし、周りの暗さより、一層暗いその影は慣れてくると存在感が増した。

「誰だ?暗くて影しか見えないけど?」

「ソレヤッタラ、ミエトルガナ。ワイハカゲヤ!」

「影谷さん?」

「チャウチャウ、カーゲ、ハゲヤナイデ!ハヨツイテコント、カゲハキイガミジカイカラナ、ホンタイノイラントコセオットルワケヤ。ホナ、イコカ。」

仕方なく影に着いていく。少し歩くとトンネルには真っ暗な裂け目があって、そこはこれ以上にないほど闇だった。影がそこに消えていく。行くまいとしたが、黒い闇が手を引いてきて、引っ張り込まれた。トンネルの壁の外に出た途端、体が浮いたような、体が取り残されて、意識だけが落ちていくような、変な感触がした。でも、風が全身に流れていったので、落ちているのだろう。その証拠に、割れ目から微かにこぼれた光で、俺には見えたのだ。落ちる間、トンネルの下に当たる場所に、幾つもの柱が見えた。高架の支柱のようなものが幾つも暗闇の中に伸びて、トンネルの下あたりを支えていた。その景色を見せてくれていたトンネルの隙間がものすごい速度で上に遠のいていく支柱の影が濃くなり、そのうち真っ暗になった。落ちていくとき、空気が身体中を流れていくのだが、それが急に暖かくなってきた。まるで、お湯の滝を流れ落ちていくように感じた。急に何か柔らかなものに落ち込んでいき、速度のエネルギーをその柔らかなものが吸っていった。暖かな柔らかで、カビ臭いものに包まれて止まった。

「オイ、シンイリヤ、ミナデ、ヒッパリアゲルデ、セーノ!」

この頃になると、暗闇に目が慣れた、というより、自分が暗闇に馴染んだ自覚があった。大勢の人影が俺を引っ張ってくれている。体温にしては冷たいが、少し暖かい。こうやって大勢に支えられたことがなかったから、少し嬉しかった。

誰とも見分けがつかない大勢の影に連れられて、真っ暗闇の通路、といっても、道や建物を感じることができる。神戸の地下には闇の街があるようだ。

ようこそ!

大きな建物に大きな看板がかかっており、そこには歓迎の言葉が書いてある。

「ほな、こっちにきいや、早速やけど、仕事や!」

影たちの声が違和感なく聞こえてきた。何かしらの工場だった。大勢の影たちと並んで、練られたものを見せられた形に整え、ベルトコンベアに乗せていく。影たちの指導が良くて、すぐに覚えられた。

「あんさんには、手捏ねコロッケの成形をやってもらう。一日三千個捏ねれば、毎日三つコロッケを支給する。神戸のコロッケはここで全部作ってんねや。どや、やりがいあろうが?仕事はツラいかもしれんが、天下に名だたる世界に通用する神戸コロッケ作らせてもらうんや!ありがたく感謝して仕事せいよ!」


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