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キングスレイヤー序  作者:
第2章 侵食の始まり

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99. 白金の重みと、新たな旅立ち

 ハインツとアサータクの歓談は、しばらくの間続いた。


 鉱山の経営状況、他国との貿易摩擦、そしてレーマネの今後の展望。


 二人の会話は、ただの世間話ではなく、経済の最前線を行く者同士の高度な情報交換だった。


 だが、その時間は唐突に終わりを告げた。


 コン、コン。


 控えめだが、急かすようなノックの音が響いた。


 続いて、秘書官らしき男が静かに扉を開けて入ってきた。


「ハインツ様。申し訳ございません。次のお約束の時間が……」


「む……もうそんな時間か」


 ハインツは名残惜しそうに時計を確認し、深く溜息をついた。


「すまない、アサータク君。立場が変わると、どうにも自分の時間を好きに使えなくてね」


「お気になさらず。お忙しい中、お時間を割いていただき光栄でした」


 アサータクが立ち上がり、一礼する。


 ハインツも立ち上がり、力強く頷いた。


「また来てくれ。君からの『面白い提案』なら、いつでも大歓迎だ」


 そう言ってハインツは、秘書官に促されるようにして部屋を出て行った。


 その背中は、商会長のそれではなく、一国の指導者の威厳を纏っていた。


「……変われば変わるもんだな」


 アサータクはぽつりと呟き、俺を見た。


「行くぞ、アーノル」


「はい」


 俺たちも部屋を出て、先ほど通された商談用の部屋へと戻った。


 そこでは支配人が、革製の重厚なスーツケースをデスクに置き、直立不動で待っていた。


「アサータク様。ご用意が整っております」


 支配人は恭しく頭を下げ、スーツケースの蓋を開けた。


 そこには、整然と並べられた白金貨の束が収められていた。


 その数、400枚。


 目が眩むような輝きと、暴力的なまでの「富」の質量。


「……アサータクさん」


 俺は思わず声を漏らした。


「まさか、これを持って旅をするつもりですか? いくらガウスたちがいるとはいえ、国家予算を持ち歩くようなものですよ」


 物理的な重さもそうだが、精神的な重圧が半端ではない。


 すると、支配人が察したように口を挟んだ。


「左様でございましょう。もしよろしければ、当商会にてお預かりすることも可能でございます。全額でも、一部でも、ご自由に指定していただけます」


 支配人は一歩下がった。


「詳細な配分が決まりましたら、そこのベルでお呼びください。私は席を外しますので」


 支配人は一礼し、静かに部屋を出て行った。


 広い部屋に、俺とアサータク、そして白金貨400枚だけが残された。


「……さて、どうする?」


 アサータクがスーツケースを閉じ、ドサリとソファに座り込んだ。


「勘違いするなよアーノル。これは基本的にお前の金だ。あのポンプを作ったのはお前だ。俺はただ仲介したに過ぎない」


「俺の金、ですか……」


 俺は腕を組んで考えた。


 確かに俺の発明だが、アサータクがいなければここまで形にはならなかった。


「アサータクさん、借金の方は大丈夫なんですか? まだ結構残ってるんじゃ……」


「あ? ああ、それならとっくに完済したよ」


 アサータクはあっけらかんと言った。


「お前から最初に預かった白金貨30枚。あれの残りで全部綺麗になった。やっぱり白金貨ってのは桁が違うな。借金を返しても、まだ残ってるぜ」


 なるほど。


 なら、この400枚は完全に自由に使える金というわけか。


 俺は答えを出した。


「じゃあ、こうしましょう。300枚はここに預けていきます」


「300枚か。で、残りの100枚を持っていくと?」


「はい。50枚ずつ、分けましょう」


「は? 俺にも50枚か?」


 アサータクが目を丸くする。


 俺は頷いた。


「俺一人じゃ使い切れませんし、旅の資金はアサータクさんが管理してますからね。それに……」


 俺はスーツケースの中に残るはずの、300枚分の白い山を指差した。


「この預けていく300枚は、アサータクさんが自由に使ってください」


「……おいおい、正気か?」


 アサータクの声が低くなった。


「金貨3万枚分だぞ? 城が買える額だ。それを俺に使えだと?」


「投資ですよ。アサータクさんはこれから、サマラやナバラでもっと大きな商売をするんでしょう? だったら元手が必要だ。俺は商売のことは分かりませんが、アサータクさんが金を増やしてくれることだけは分かってますから」


 俺が笑って言うと、アサータクはしばらく呆気にとられた顔をしていたが、やがて「クククッ」と肩を揺らして笑い出した。


「ハッハッハ! 違いない! お前はとんでもないパトロンだよ!」


 アサータクは立ち上がり、俺の肩をバシッと叩いた。


「いいだろう! その300枚、俺が預かる。倍……いや、十倍にして返してやるから覚悟しておけ!」


「期待してます」


 俺たちはベルを鳴らし、支配人を呼び戻した。


 300枚を商会に預け入れ、残りの100枚を50枚ずつ懐に収める。


 身軽になったが、懐の中身は以前よりも遥かに重い。


 俺たちはハインツ商会を後にした。


 外の風は心地よく、どこまでも続く街道の先を指し示しているようだった。


 資金はできた。


 護衛も最強だ。


 俺たちの本当の旅が、ここから始まろうとしていた。




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