表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キングスレイヤー序  作者:
第2章 侵食の始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/175

83. 禿鷹と守護者

 王宮の回廊を、豪奢な衣装を纏った肥満体の男が機嫌よさげに歩いていた。


 王国の西部一帯を支配する実力者、モグロン侯爵である。


 彼がすれ違う貴族たちは皆、畏怖と媚びを含んだ視線を送り、深々と頭を下げる。


 「ククク……。今日も精が出るな、ヌモン伯爵は」


 モグロンは美しく整えられた口ひげを撫でながら、下卑た笑みを浮かべた。


 彼の耳には、王の私室から聞こえる狂乱した叫び声が、まるで勝利の凱歌のように心地よく響いていた。


 現在の王は、もはや政治を行う機能を持たない廃人だ。


 酒に溺れ、ヌモンという佞臣ねいしんに骨抜きにされている。


 だが、モグロンにとってそれは嘆くべきことではない。


 むしろ、待ち望んでいた「春」の到来だった。


 なぜなら、王位継承順位第一位である第一王子は、モグロンの可愛い孫だからである。


 第一王妃の父であるモグロンにとって、王の死はすなわち、自身の絶対的な権力が確立する瞬間を意味していた。


 「早く死ね、豚王よ。そして我が孫に、その玉座を明け渡すがいい」


 モグロンは窓から王都を見下ろす。


 ヌモンが王に麻薬を盛り、死期を早めているなどとは夢にも思っていない。


 単に酒浸りで体を壊しているだけだと信じ込んでいるのだ。


 (ヌモンの奴、最近は第二王子に随分と肩入れしているようだが……)


 ふと、そんな不穏な噂が頭をよぎる。


 第二王子の母は隣国マッデン出身であり、ヌモンとの密接な繋がりも囁かれている。


 だが、モグロンはすぐに鼻で笑い飛ばした。


 「フン、小賢しいネズミめ。まあいい、あやつは強い者につく習性がある。私が実権を握れば、尻尾を振って擦り寄ってくるだろう」


 モグロンは自らの権勢と孫の即位を疑わず、忍び寄る破滅の足音に気づくこともなく、満足げに高笑いを上げた。


 ******


 一方、王都から遠く離れた東の国境、要塞都市ツカースクン。


 冷たい風が吹き抜ける執務室で、眉間に深い皺を刻み、地図を睨みつけている男がいた。


 東部の防衛を担うニンサンヨ伯爵である。


 「……ガンガラが攻めてくるか、ですか?」


 問いかける側近に対し、ニンサンヨは鼻を鳴らして首を横に振った。


 「ありえんよ。奴らは好戦的だが馬鹿ではない。今、ガンガラは東の小国ランガと睨み合っている最中だ。いかに小国とはいえ、無視して我が国へ兵を割けば、その背中を突かれることになる。膠着状態だよ」


 彼は地図上の国境線を太い指でなぞる。


 この微妙な均衡が崩れない限り、ヨンドカへの大規模な侵攻はない。


 それがニンサンヨの冷静な分析だった。


 「私が懸念しているのは、外敵よりも内患……王都の腐敗だ」


 ニンサンヨは地図から目を離し、窓の外へ視線を投げた。


 王宮には寄り付かずこの要塞にこもっているが、各地に散らばる盟友たちのことは常に気にかけている。


 「ゴーロック男爵からの定期報告は?」


 「はっ。任地の町にて、滞りなく統治を行っているとのことです」


 「そうか。あの堅物がいてくれれば、あちらの治安は盤石だな」


 ゴーロック男爵。


 かつて共に戦場を駆け抜けたニンサンヨの戦友であり、現在は別の町を治める領主だ。


 武勇に優れ、忠義に厚い男だが、彼には少しばかり気がかりな種があった。


 それは、三人の子供のうちの長男のことだ。


 長男は生まれつき体が弱く、空気の淀んだ街中では体調を崩しやすい。


 そのため、空気の澄んだ南の辺境、クルム村へ代官として赴任させ、療養も兼ねて静かに暮らさせているのだ。


 「クルム村か……。あそこには、私の腹心であるバズを行かせているんだったな」


 ニンサンヨは苦笑した。


 バズはこの要塞でも五指に入る猛者であり、ニンサンヨが最も信頼を置く部下の一人だった。


 だが、ゴーロックとも縁の深いバズは、親友の長男が辺境へ行くと知るや、「体の弱い坊ちゃん一人に任せてはおけません! 私が守ります!」と自ら志願。


 片田舎の砦の兵士長へと、自ら降格していったのだ。


 「心配性の馬鹿者め。だが、バズがついているなら、ゴーロックの息子も安心だろう」


 王都は腐敗し、王は狂っている。


 だが、信頼できる絆はまだ残っている。


 ニンサンヨは東の空を見上げ、遠く離れた戦友と、部下が守る小さな村の平穏を静かに祈った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ