8. 広場の宣告
村の広場は、刺すような緊張感と絶望に支配されていた。 「ヨンドカ王国第二王子、ジャミル様のご生誕を祝し、本村には『澄みわたる上級ライ麦酒』十樽の献上を命ずる!」 馬車の上から、傲慢な役人が書面を読み上げる。その声は、静かな村の空気を冷酷に切り裂いた。
「……そ、そんな。上級品など……」 村長が震える声で膝をつき、必死に頭を下げた。「この村にあるのは、酸味が強く濁った安酒ばかり。王位継承の祝宴に供されるような酒など、用意できませぬ。どうか、どうかご慈悲を……!」
「黙れ、無能が」 役人は冷酷な一言と共に、泥まみれの地面に額を擦り付けていた村長の頭を、重いブーツの踵で容赦なく踏みつけた。鈍い音とともに村長の呻き声が泥に沈む。
「用意できぬというなら、代わりとして村の若者十名を供出せよ。王都のさらに北、陽の光も届かぬ深山の開発に従事させる。……ああ、案ずるな。彼らには国のための『資材』として、一生涯その身を捧げる栄誉が与えられるのだからな」
その言葉の響きだけで、子供たちは本能的に察した。それが「二度と帰れない、恐ろしいこと」であることを。
「アーノル……」 隣でケニの手を引いていたロバーソンが、消え入るような声で名を呼んだ。その小さな拳は、白くなるほど強く握られ、怒りと恐怖で激しく震えている。 「あいつ……ゆるさない」 口数の少ないロバーソンが発したその言葉には、五歳児には抱えきれないほどの激しい拒絶が宿っていた。
それを見た役人は
「そこの目つきの気に食わないガキも連れて行ってやろう、王家のために働ける名誉だぞ」
ロバーソンに向かって下卑た顔を向ける。
(……。あぁ、最悪だ。反吐が出る。ロバーソンがいなくなれば、ケニは誰と遊べばいい? それに……俺自身だって、こいつがいなくなったら、この孤独な世界で誰と肩を並べて歩けばいいんだよ。……。はぁ、本当に、本当に面倒くさいな)
アーノルは深く溜息をつき、ロバーソンの泥に汚れた冷たい手を、力強く握り締めた。「……泣くな。あんな奴らに今ぶつかっても、お前が痛い思いをするだけだ。……。いいか、俺を信じろ。あの役人の鼻を明かして、お前も、村の兄ちゃんたちも、誰一人どこへも行かせない。俺がなんとかしてやるから」




