75. 進むべき道は
「……レーマネ、ですか」
俺は思わず眉を上げた。
西にある商業都市国家、レーマネ。
特定の国に属さず、商人と金が集まることで自治権を獲得した、この大陸でも有数の巨大経済圏だ。
村の小さな社会しか知らない俺にとって、それは「世界」そのものと言ってもいい響きだった。
本来なら、二つ返事で飛びついていたはずだ。
新しい技術、未知の素材、見たことのない道具。
発明家としての俺を刺激するものが、そこには山ほどあるだろう。
だが。
俺の脳裏に、ふと隣町の牧場の風景がよぎった。
(レーマネに行けば、数ヶ月、いや年単位で帰ってこれないかもしれない。その間、ユーイさんには……)
せっかく『ミネラル・ブロック』で定期的な訪問ルートを確立し、距離が縮まってきたところだ。
ここで長期離脱するのは、恋の戦略として致命的じゃないか?
「……あの、魅力的ではあるんですが、今はちょっと手離せない案件がありまして」
俺が言い淀むと、アサータクはニヤリと笑った。
「案件? 例の『飴玉』のことか? それとも、飴玉を届けに行く『先』のことかな?」
「ぶッ!!」
俺は盛大に動揺した。
こいつ、どこまでお見通しなんだ。
俺は助けを求めるように両親を見た。
母さんは心配そうに眉を下げ、ガリオンもいつになく深刻な顔をしている。
だが、ガリオンは俺の目を見ると、短く言った。
「……もう15だ、自分で決めていい」
「父さん……」
「俺たちに気を使うな。お前の人生だ」
その言葉は嬉しかったが、同時に決断の重みを俺の肩に乗せた。
俺が黙り込むと、アサータクは帽子を被り直して立ち上がった。
「まあ、急な話だ。無理に今答えなくていい」
アサータクは俺の肩をポンと叩いた。
「俺は一度、別の商談でよその町に行ってくる。ここに戻ってくるのは二十日後だ。返事はその時でいい」
アサータクは風のように去っていった。
残された俺は、台所から聞こえるケニとロバーソンの楽しげな声をBGMに、深く、重いため息をついた。




