7. 沈黙の修行期間
それからしばらく、アーノルの日常は重労働に埋め尽くされた。畑に通うたび、ケニのために作る木彫りのおもちゃは少しずつ上手くなっていき、不格好だったウサギも、今ではそれなりに動物らしく見えるようになった。
「違う。土を握れ。……石をどかした後に砂を入れろと言っただろう」
バテンの指導は苛烈だったが、アーノルの「見る力」でバテンを視るたび、その【農王】という性質が土を完全に支配しているのが分かった。
しかし、最近バテンの視線が、単なる「嫌なガキを見る目」から、別の鋭さを帯びてきているのを感じる。俺が子供の思いつきを装って投下する「堆肥」や「輪作」の概念。最初は鼻で笑っていたバテンだったが、あまりに的確な俺の指摘に、時折作業を止めて俺を凝視するようになった。
「……アーノル。貴様、その植えるものによって土の力が増えたり減ったりするという発想、どこで覚えた。木こりの親が教えたわけではあるまい」
(……マズい、少し出しすぎたか) 俺は慌てて「森で腐った落ち葉の下の土が、一番元気だったから!」と子供らしい言い訳を被せたが、バテンの疑念に満ちた眼光は消えなかった。このジジイ、やはり侮れない。
そんなある日。畑仕事の帰り道、村の入り口に、嫌な予感しかしない豪華な馬車と、傲慢そうな騎士たちが止まっているのが見えた。その一人の腰にある紋章を見て、アーノルの胃のあたりがキュッと締まった。
「……。あれ、あの紋章ってヨンドカ王国のじゃないだろうな? ……。勘弁してくれよ、まだ5歳だぞ。フラグが立つのが早すぎるだろ……」
第二王子の影。アーノルは眠そうにしているケニを背負い直し、できるだけ気配を消して物陰に身を潜めた。関わりたくない。だが、逃げられないことも理解していた。




