67. 馬飼いの親子と旅の誘い
バテンが亡くなり1年ほど、自警団の訓練はさらに熱を帯びていた。
広場では、これからの自警団を背負うであろう三人が、頭角を現し始めていた。
一人目はメイシー。
まだ線は細いが、その身のこなしは風のように軽い。
相手の剣筋を見切る「目」と、紙一重でかわす「胆力」に磨きがかかり、放つ剣撃も鋭さを増している。
実力をグングン伸ばすメイシーに対し、周囲の期待も高まっていた。
二人目はロバーソン。
幼少期からの鍛錬に加え、実戦で培った経験が花開こうとしている。
長槍を振るう姿は鬼気迫るものがあり、間合いに入ることさえ困難だ。
すでに自警団の中でもトップ争いに加わっている。
そして三人目は、俺だ。
「見る力」による予測と、前世の知識を応用した身体操作。
えげつない回避力を軸に、二人に引けを取らない強さを発揮していた。
村の誰もが、近い未来、この三人が最強の戦力になると確信していた。
一方で、最近加わったグレンだ。
彼は意外な健闘を見せていた。
基礎訓練に関しては、幼少期から鍛えてきたロバーソンに匹敵するほどのスタミナを見せたのだ。
農家ならではの足腰と、自分でもかなり鍛錬してきたのだろう。
だが、動きがぎこちない。
動きのつながりが悪く、剣の振りも槍の突きも、なんだかスムーズに振れていない。
先は長そうであり、俺はそれを見て、彼は戦闘に向いていないな、と思っただけだった。
訓練が終わり、教官役の兵士が帰還すると、自警団リーダーの狩人ミルラが手を叩いて全員を集めた。
「みんな聞け。馬飼いのシニカから要請が来ている」
ミルラが太い声で短く告げる。
「隣町への『馬の交換』だ。手伝いを兼ねた護衛を二名出す。誰か行きたい者はいるか?」
その言葉に、若手の団員たちが色めき立った。
村の外に出られる機会などそうそうない。
誰もが手を挙げようとした、その時だった。
「俺が行く」
低く、重い声が響いた。
声の主はガリオン――俺の父だった。
普段なら「行きたい奴が行けばいい」と若者に譲る男だ。
そんな父が立候補するなど、あまりにも珍しいことで皆驚いている。
一目置かれている父の申し出に、若手たちも素直に賛同した。
ガリオンはそのまま、俺の方をじろりと見た。
「もう一人は、アーノルだ。お前が来い」
「え、俺?」
「ああ。手伝え」
有無を言わせない口調だ。
父がこうして俺を誘い出すのは珍しい。
よく理由が分からないが、俺は頷くしかなかった。
「……分かった。行くよ」
休憩中、俺は近くの団員に馬の交換について聞いてみた。
「血を入れ替えるんだよ。同じ村の馬ばかりだと弱くなるから、定期的に隣町と入れ替えるのが慣例なんだ」とのことだった。
数日後。
俺と父は、村の入り口で馬飼いの親子と合流した。
馬飼いのシニカは、三十五歳の男だ。
常に不機嫌そうだが、馬には愛情を持って接している。
その隣には、息子のトニカがいる。
十二歳とは思えないほどおとなびた、優しい性格の少年だ。
「チッ、今日は風が湿ってやがる。馬の機嫌が悪くなりそうだぜ」
シニカは空を見上げ、悪態をついた。
「ごめんね、ガリオンさん、アーノルさん。父さん、今日は虫の居所が悪くて」
トニカが申し訳なさそうにフォローを入れる。
「余計なことを言うなトニカ! ……おいガリオン、その図体で馬を怖がらせるなよ」
「……ああ」
ガリオンは短く答え、手綱を引いた。
こうして、奇妙な四人の旅が始まった。




