63. グレン
広場に木剣がぶつかり合う乾いた音が響く。
現在、自警団の訓練は近隣の砦から定期的に派遣されてくる現役の兵士によって行われていた。
俺もその列に加わり、額に汗を浮かべながら木剣を振るう。
その列の先頭で、教官の視線を一身に集めているのがメイシーだ。
「はっ!」
鋭い呼気とともに、メイシーが踏み込む。
相手の木剣が振り下ろされる瞬間に最小限の動きで回避し、懐に滑り込む。
これまでの朝練で俺が指導し、ロバーソンとの打ち込みを繰り返してきた成果が、着実に形になっていた。
まだ粗削りだが、その戦闘向きの才能は実力をグングンと伸ばしており、あの独特の反応速度はかなりのものだ。
「そこまで! メイシー、今の踏み込みはなかなか良かったぞ」
教官が満足げに頷く。
メイシーは「ありがとうございます!」と短く応え、袖で額の汗を拭った。
訓練の合間の休憩に入ったとき、広場の隅で落ち着かなさそうにこちらを見ている男がいた。
まだ幼さの残る少年だ。
ここにいるということは、同じ村の住人なのだろうが面識はない。
俺は、見る力を使って少年の能力を調べた。
【グレン】
13歳 男 健康
戦闘:E
頭脳:F
器用:F
幸運:E
魔力:F
能力:農家
……平凡だ。
戦闘がE、他はF。
年相応の平均的な数値と言える。
そして能力は「農家」。
この世界で一番多いとされる、ありふれた能力だ。
全体的に見て、特筆すべき点はない。
グレンは俺と目が合うと、緊張した面持ちで駆け寄ってきた。
「あ……あの、アーノルさんだよね? 俺、グレンって言います」
グレンは少し気後れしたように、だが憧れの眼差しを俺に向けてきた。
村で色々とやらかして有名になっている俺のことは、一方的に知っていたのだろう。
「俺、自警団に入れてもらえねえかな。才能なんてねえのは分かってるんだけど、アーノルさんやメイシーみたいに、誰かを守れるようになりたいんだ!」
グレンはそのまま、教官である兵士の前まで進み出て、深く頭を下げた。
「お願いします! 精一杯、努力しますから!」
教官は腕を組み、じろりとグレンの足腰を見た。
農作業の手伝いで鍛えられたのか、その身体は年齢のわりにしっかりとしており、安定感だけはある。
「……自警団の訓練は遊びじゃないぞ。ついてこられるか?」
「はい! 百倍努力します!」
教官はしばらく考えた後、口を開いた。
「よし、入団を許可する。明日から遅れずに出てこい」
「はい! ありがとうございます!」
グレンは太陽のような明るい笑顔を浮かべ、何度も頭を下げた。
戦闘向きの能力を持ち、急速に実力を伸ばしているメイシーに比べ、能力のすべてが平均的で、最もありふれた「農家」の能力しか持たないグレン。
この数値を見る限り、彼がここから強くなれるとは到底思えなかった。
俺は「見る力」を閉じ、新しい仲間の挨拶を受け入れた。




