6. 鉄の門を叩く
数日後。アーノルは、東の果てのバテンの畑に立っていた。横には、付き合わされて不安そうなロバーソンがいる。
前回のドンナとの取引は「一回限り」だ。今日もケニを連れてきたが、修行の間どう過ごさせるかが問題だった。すると、ロバーソンがそのへんに落ちていた枝を拾い上げて言った。
「アーノル、僕、こっちで槍の練習してるから。ケニのことは見ておくよ」 「助かる、ロバーソン」
俺はバテンの畑の隅にある切り株にケニを座らせ、懐から昨日作った「木彫りのウサギ」を取り出した。木こりの親父の端材を削ったものだが、出来栄えはかなり不格好で、耳の長さも左右バラバラだ。 「はい、これ。あっちでロバーソンと一緒に遊んでて」 「う、うさぎさん……? ケニ、これで遊ぶ!」 不格好でも新しいおもちゃには興味を示してくれた。ケニがウサギを振り回し、ロバーソンが枝を槍に見立てて素振りを始めたのを確認し、俺はバテンへと向き直った。
バテンは相変わらず、地を這うような姿勢で黙々と土をいじっていた。
「……死ぬまで木でも叩いていろと言ったはずだ、小僧」
バテンの拒絶は鋭い。アーノルは心の中で「帰りたい」と叫びつつ、努めて冷静に、しかし図々しく切り出した。
「おじいさん。息子さんは、商人になったんですよね」
バテンの手が、ピタリと止まる。
「……貴様、どこでそれを聞いた。……あの愚か者の話はするな」
「怒らないでください。でも、おじいさんのこの凄い技術が、誰にも継がれず、このままおじいさんと一緒に土に埋まっちゃうのは……すごく損失だと思うんです。……もったいないでしょう?」
アーノルは「見る力」を通じ、バテンが持つ【農王】という性質が、この村において唯一無二の価値であることを確信していた。
「親父は木こりですが、僕は森で木を切る以外の生き方も知っておきたいんです。おじいさんのやり方を、僕に教えてください。……そうすれば、いつか息子さんがこの村に戻ってきたとき、おじいさんの技術がちゃんと誰かに受け継がれて、この村の畑がもっと豊かになっているところを見せられる。それが一番の『答え』になると思いませんか?」
バテンがゆっくりと顔を上げた。その眼には、底知れない苛立ちと、それ以上に、目の前の「可愛げのないガキ」の正体を見定めようとするような、粘りつく視線が混じっていた。
「……ガキの分際で、生意気なことを。……。アーノル、貴様は素手でその隅の石をすべてどかせ。一つでも残っていれば、二度と敷居を跨がせん」
それは教育の始まりというより、単なる嫌がらせの強制労働だった。 (……。あーあ、やっぱりこうなる。腰が痛くなりそうだ) アーノルは心の中で悪態をつきながら、泥だらけの土に手を突っ込んだ。




