56. 泥にまみれた謝罪と、再起の火種
王都から少し離れた宿場町。
アサータクはかつての知人――今はレーマネ商人の有力な連絡員となったケイルを、スラムの酒場で見つけ出した。
「……アサータクか。どの面下げて戻ってきやがった」
ケイルは酒を煽りながら冷たい眼差しで睨みつける。
「ケイル、まずは……すまなかった」
アサータクは深く頭を下げた。
かつての取引で負わせた大損害。謝罪だけで済まないことは百も承知だ。
「謝罪だと? ふざけるな!」
ドゴッ。
拳がアサータクの顔面を捉え、床へ転がった。
だがアサータクはすぐに口の端の血を拭い、這い上がる。
「一発で済むなら安い。だが殴り殺す前に、これを見ろ」
懐から汚れた羊皮紙の端を差し出した。
そこには逆止弁のスケッチ――揚水ポンプの心臓部がある。
「なんだ……この緻密な構造は……」
ケイルの目が商人の色に変わった。
「これは世界を変える技術だ。お前をレーマネの本部へ押し戻す片道切符だ。俺を信じるな。この知恵を信じろ」
一晩中の罵倒と交渉の末、ケイルは折れた。
「……分かった。明日ここを通るハインツ大商人の馬車を止めろ。しくじれば、お前の命はないと思え」
翌朝。
道の真ん中に立ち、豪華な馬車が近づく。
ケイルが影から合図を送る。
アサータクは手押し式模型を地面に置き、力一杯レバーを引いた。
シュポッ、ドババババッ!
枯れた道端の井戸から、魔法も使わずに水が勢いよく噴き出した。
異様な光景に馬車が急ブレーキをかけ、扉がゆっくり開く。




