55. 商人の再起と、友への誓い
アサータクは、テーブルの上の設計図と部品を食い入るように見つめ、やがて大きく息を吐き出しました。
その顔からは、先ほどまでの悲壮感は消え、代わりに底知れない「怪物」を目の当たりにした者の震えが混じっていました。
「……正直に言おう。今、俺はお前に恐怖すら感じている。その小さな頭の中に、どれほどの知恵が眠っているんだ?」
アサータクの視線は、設計図とアーノルの顔を何度も往復しました。
商売人としての鋭い直感が、この揚水ポンプがもたらすであろう莫大な富と、それによって変わってしまう世界の姿を瞬時に描き出していたのです。
「……国中の大商人が喉から手が出るほど欲しがる宝を、平然と差し出しやがって。……アーノル、ありがとう」
アサータクは設計図を丁寧に巻き直し、命の恩人を扱うかのような手つきで懐へとしまい込みました。
その顔には、借金の恐怖を乗り越え、巨大な商機を前にした商人の不敵な笑みが戻っていました。
「待っていろ。この『揚水ポンプ』、俺の商売人としての命運をかけて売り捌いてやる。白金貨20枚? 笑わせるな。この技術があれば、白金貨200枚はふんだくってやるさ」
商人は風のように去っていきました。
その背中には、借金を背負った男の悲哀ではなく、世界を変える商品を預かった男の矜持がありました。
アーノルは地下室に残された酒樽を見つめました。
(これでいい。知恵は、人を助けるためにある。……待っていてくれ、バテンさん)




