54. 確実なる富、揚水ポンプ
部屋に、重苦しい沈黙が落ちる。
ガリオンは悔しさに唇を噛み切り、メイシーは俯いて震えている。
だが、アーノルだけは静かに立ち上がり、部屋の隅にある棚へと向かった。
そこには、書き溜めた羊皮紙の束と、いくつかの試作品が乱雑に放り込まれた木箱があった。
アーノルはその中から、迷いなく一枚の設計図と、弁や鉄で出来た試作部品を取り出し、テーブルの上に広げた。
「アサータクさん。……これなら、間違いなく金になります」
「……何だ、それは?」
アサータクが涙を拭い、怪訝そうな顔をする。
「『揚水ポンプ』です」
アーノルは淡々と、しかし確信を込めて説明を始めた。
「これを使えば、深い井戸や鉱山の底から、驚くほど楽に水を汲み上げられます。テコの原理と、この『弁』の仕組みがミソです」
アーノルには分かっていた。
農業国であるこの国において水は命だ。
そして、ナバラ帝国などの鉱山を持つ勢力にとって、坑道の水没は最大の悩みだ。
便利グッズや遊び道具ではない。
これは、産業の根幹に関わる装置だ。
だからこそ、これには間違いなく高値がつく。
白金貨20枚どころではない価値がある。
「酒は売りません。あれはバテンさんが帰ってきてから、みんなで祝杯をあげるためのものです。だから、僕はこの『確実な技術』を売ります」




