53. 悲痛な叫びと、足りない20枚
季節は巡り、アーノルたちが13歳を迎える頃。
村は静かな夜を迎えていたが、アーノルの家の扉が乱暴に叩かれたことで、その静寂は破られた。
転がり込んできたのは、商人のアサータクだった。
かつてのような飄々とした態度は見る影もない。
髪は振り乱れ、目は血走り、服は泥だらけだった。
「……アーノル、助けてくれ」
その悲痛な声に、アーノルは息を呑んだ。
あの自信家で、どんな時も計算高く振る舞っていたアサータクが、子供である自分に縋り付いている。
ただ事ではない。
「アサータクさん、落ち着いて。何があった?」
「バテンが……保釈されることになった」
「本当か!?」
ガッと音を立てて椅子を蹴り、立ち上がったのはガリオンだった。
普段は冷静な父が、拳を震わせている。
「ああ。俺があらゆる伝手を使い、役人を金で叩き、ようやく司法省から許可をもぎ取った。だが……」
アサータクは床に拳を叩きつけた。
「保釈金が、足りないんだ。俺の全財産を売り払い、借りられるだけの借金もした。それでも……あと『白金貨20枚』足りない」
その場にいた全員が絶句した。
白金貨20枚。
それは、この辺境の村が何十年かけても稼げないような額だ。
「期限はない。だが、バテンの体はもう限界だ。あの劣悪な牢獄の環境じゃ、冬を越せるかどうか……一刻も早く連れ出さないと、殺される」
アサータクは震えながら、顔を覆った。
「俺の力不足だ……。あと少し、あと少し金があれば、あの頑固親父を助け出せるのに……!」




