表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キングスレイヤー序  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/129

45. 10歳の境界線

そして、アーノルたちは10歳を迎えた。

 この世界において、10歳は子供時代の終わりを告げ、大人への入り口に立つ節目だ。

 これまでは家の雑用が主だったが、これからは見習いとして、親の仕事を本格的に学び始めることになる。


「アーノル、今日から森での仕事教える。ついてこい」


 父ガリオンの言葉と共に、アーノルの生活は変化した。

 いきなり巨木を切り倒すわけではない。

 まずは枝払いや、手頃な薪の運搬、道具の手入れといった基礎からだ。

 それでも、大人と同じ現場で汗を流す時間は、これまで遊び回っていただけの生活とは重みが違った。


 それは仲間たちも同じだった。

 ロバーソンはくわを担いで畑仕事の一部を担い、ドンナもまた、家業である農業を手伝うために畑へ出るようになった。

 マンダルは鍛冶場で鉄を打つための基礎を叩き込まれている。


 朝から昼過ぎまでは仕事、その後も片付けや明日の準備。

 かつてのように、朝から晩まで無邪気に遊び回る自由な日々は終わりを告げた。


 それでも、仕事が終わった夕暮れ時。

 まだ不慣れな労働で少し重くなった体を引きずりながら、彼らはいつもの場所へ集まった。


「……ふぅ。親父のやつ、金槌の振り方にうるさくてさ。腕がパンパンだ」


 マンダルが大人びた苦笑いを浮かべながら、肩を回してやってくる。

 隣のロバーソンは何も言わず、ただ疲れたように腰をさすっていた。

 マンダルが「お前も絞られたんだろ?」と水を向けると、ロバーソンは短く答えた。


「……ああ。腰が入ってない、と」


 見習いとしての仕事はまだ半人前で、労働時間も大人ほど長くはない。

 けれど、社会の一員としての責任を少しずつ背負い始めた彼らの顔つきは、以前より少しだけ精悍になっていた。


 彼らは武器を手に取る。

 日々の仕事で体力を使い果たしていても、この日課だけは欠かさない。


 アーノルは槍を振るうロバーソンを見た。

 かつてのような無邪気な笑顔も、激情にかられた涙もない。

 黙々と、教わった型の反復ではなく、より実戦的な突きを繰り返している。


 その瞳の奥には、深海のように静かで、しかし決して消えることのない暗い炎が揺らめいていた。

 それは殺気というよりも、自らの魂を焦がし続ける、執念に近い決意の光だった。


(……ロバーソンは、まだ見ているんだ。あの日の屈辱を、昨日のことのように)


 アーノルは成長した自分の手を見つめる。

 斧を握り始めたことで、掌には新たな豆ができ始めていた。

 あの頃より確実に背も伸び、力もついた。

 だが、心のどこかで「家族を守るためには、このまま村の一員として静かに生きる方がいい」という諦めが広がっているのも事実だった。


 進み続けるロバーソンと、立ち止まるアーノル。

 10歳という境界線を越え、見習いとしてそれぞれの道を歩み始めた少年たちの関係は、変わらないようでいて、少しずつその形を変えようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ