44. 過ぎ去る季節と新たな仲間
あれから、しばらくの時が流れた。
村を襲ったあの忌まわしい嵐の傷跡は、表面的には癒えたかのように見えた。
連行された自警団の大人たちや、鍛冶師ガンダルたち職人も、一人、また一人と村へ帰ってきたからだ。
皆、やつれてはいたが、生きて家族のもとへ戻れたことは幸いだった。
ただ一人、バテンを除いては。
醸造責任者として連れ去られた彼だけが、未だに戻らない。
母ティプャは時折、北の空を見上げては溜め息をつき、父ガリオンは相変わらず無口なまま、黙々と薪を割り続けていた。
アーノルの日常もまた、少しずつ変化していた。
ロバーソン、ドンナ、ルンナ、ケニ。
いつもの顔ぶれに、新たな仲間が一人加わったのだ。
鍛冶師ガンダルの息子、マンダルだ。
マンダルは父親が不当に連行されたという共通の痛みから、アーノルの家に来るようになり、自然と行動を共にするようになった。
彼は父親譲りの頑丈な体格をしており、不器用ながらも気のいい少年だった。
「ロバーソン、またやるのか? ……少しは休めよ」
マンダルが心配そうに声をかけるが、ロバーソンは答えない。
この数年で、ロバーソンはさらに無口になった。
笑顔を見せることはなくなり、ただひたすらに槍を振るう。
その姿は、子供の遊びの延長などではなく、獲物を確実に仕留めるための冷徹な「殺傷技術」の追求そのものだった。
アーノル自身は、あの日の絶望から心の奥底で「諦念」を抱き始めていたが、鬼気迫るロバーソンに引かれるように、日々の鍛錬だけは続けていた。
そんなある日、ひっそりと村を訪れたアサータクが、王都の情報を運んできた。
「……王都では今、ヌモン伯爵が管理する『琥珀酒』が大流行しているらしい」
アサータクの話によると、その酒は飛ぶように売れ、ヌモン一派に莫大な富をもたらしているという。
だが、どうやらできた端から出荷されており、「寝かせて熟成させる」という工程は行われていないようだった。
アーノルはふと、地下牢にいるバテンの姿を想像した。
バテンが熟成の秘密を黙っているのは、王家への抵抗ではないだろう。
彼は実直な職人だ。
アーノルの知識として聞いてはいたが、実際に数年寝かせた酒の味を、彼自身まだ確認していない。
「本当に美味くなるのか確信がないことを、言葉にできない」
そう考えて、口を閉ざしているに違いない。
結果として、王都の人々は「若い酒」を有り難がって飲んでいる。
アーノルは複雑な思いを飲み込んだ。
自分たちの知恵が、不完全な形で権力者の欲望を満ている現実に、胸の奥が冷える思いだった。




