40. 黄金の秋と妹の指輪
アサータクが去ってから数週間。村はこれまでにない穏やかで豊かな空気に包まれていた。
酒の売却で得られた資金は、すぐに村の生活へと還元された。ボロボロだった冬着は新調され、家々の貯蔵庫には塩漬けの肉や新鮮な穀物が溢れている。
アーノルにとっても、この数ヶ月はこれまでの人生で最も「手応え」を感じる時間だった。自分の知識が家族を温め、村の人々の胃袋を満たしている。その事実は、この過酷な世界で生き抜くための、泥臭くも確かな自信を彼に与えてくれた。
「にぃに! 待ってー!」
夕暮れ時、黄金色の斜光が差し込む村の小道を、ケニが一生懸命に駆けてくる。その後ろを、少し大きなドンナと、ケニと同じ年頃のルンナが笑いながら追いかけていた。
アーノルが足を止めると、ケニは勢いよくその膝に飛び込んできた。
「見て見て、にぃに! ルンナちゃんがね、くれたの!」
差し出された小さな手には、秋の野花と丈夫な蔦で編まれた、不格好だが可愛らしい指輪がはめられていた。
「おや、素敵だね。世界に一つだけの宝物だ」
「えへへ、にぃににも作ってあげるね。はい、これ!」
ケニはポケットから予備の蔦を取り出すと、アーノルの指に不器用に巻きつけ始めた。小さな指が一生懸命に動く。その温かさと、ケニが放つひなたのような匂いに、アーノルの心はふわりと解きほぐされていく。
「にぃに、バテンおじちゃんがね、来年はお花もいっぱい植えるって言ってたよ。ケニ、お花畑でお昼寝したいな」
「そうだね。きっと綺麗な花が咲くよ」
アーノルはケニの頭を撫でながら、村の奥にあるバテンの畑に目を向けた。
バテンは今頃、次の春に向けた土壌の計画を練っているはずだ。ロバーソンは、砦の方角を見つめて槍を振っているだろう。
すべてが、正しい方向に進んでいる。
自分が持ち込んだ知恵が、この閉鎖的な村に小さな「希望」という名の種をまいた。それが芽吹き、花開くのを、自分は特等席で眺めていればいい。
(……ずっと、これが続けばいいんだけどな)
アーノルは、自分の指に巻かれた不揃いな蔦の指輪を見つめた。
未来視の訓練で張り詰めていた脳が、穏やかな夕風に洗われていく。
夕餉の支度をする竈の煙が、平和の象徴のように空へ高く昇っていた。




