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ヤング キングスレイヤー  作者:


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4 村の救世主と沈黙の父

ケニを迎えに行き、家路につく。 預けられていた子供たちの能力も鑑定しておけばよかったと思ったが、後の祭りだ。 道すがら、ケニは「ろんもっていう子と、なかよしになったのー!」と一生懸命に今日一日の冒険を報告してくれている。だが、俺の頭は「あの偏屈ジジイをどう攻略するか」というシミュレーションで占拠されていた。


うわの空で相槌を打っていると、ケニが立ち止まり、ぷーっと頬を膨らませた。 「おにーちゃん、きいてない! もー、しらない!」


マズい。天使の逆鱗に触れた。 結局、家に着くまで必死にケニのご機嫌取りに奔走することになり、俺の「農王攻略会議」は一時中断を余儀なくされた。


夕食の時間。 俺はさりげなく、あの老人――バテンについて両親に水を向けてみた。 「今日、東の畑でバテンっていうおじいさんに会ったんだ。何してる人なの?」


「そうか」 父が、削ぎ落とした一言を投げる。……相変わらず、答えになっていない。 代わりに、母・ティプの口から堰を切ったように情報が溢れ出した。


「まあ、バテンさんに会ったのね。あの人はこの村の救い主なのよ。いい、アーノル。絶対に失礼なことをしちゃダメよ?」


母の話を要約すると、あの偏屈ジジイはこの村の歴史を塗り替えた「農業コンサルタント」だった。 かつてこの村の主食はライ麦一本槍だったが、土の力が枯れ果て、不作が続いて村は餓死者寸前まで追い込まれたという。その窮地を救ったのがバテンだ。


彼は芋や豆を導入し、麦と交互に育てることで土壌を回復させた。「連作障害の回避」と「救荒作物の導入」。俺が前世の知識で無双しようと思っていた農業チートを、あのジジイは既に一人で完遂していたわけだ。そりゃスキルが【農家】じゃなく【農王】なわけだよ。


「あの頃は毎日お腹が空いて……でも、バテンさんのおかげで、あんたたちの代はひもじい思いをせずに済んでるのよ」


母の話はそこから止まらなかった。 物納が足りない時に教会の司祭様が助けてくれた話。バテンが流行り病で妻子を亡くした悲劇。そして、唯一生き残った息子が「土いじりはもう嫌だ」と商人になるために家を飛び出し、絶縁状態になっていること……。


情報の海に溺れそうになっている間に、ふと隣を見ると、ケニが椅子に座ったまま船を漕いでいた。


「あら、ケニは寝ちゃったわね」


母が今さらなことに気づいた瞬間、父がスッと立ち上がった。 「そうだな」 一言だけ添えて、流れるような動作でケニを抱きかかえ、寝室へと消えていく。


(……逃げたな、親父。) だが、俺にはわかる。前世で結婚し、家庭を持っていた俺には、あの背中が「限界」を語っているのが痛いほど理解できた。妻の止まらないお喋りに対し、余計な反論をせず、物理的に距離を置く。それは家庭の平和を維持するための、一つの完成された「正解」なのだ。


残された俺は、その後もしばらく母の独演会に付き合わされ、挙句の果てに「片付け手伝って」と強制労働に従事させられた。 すべてはあのジジイの話題を出した俺のミスだ。


それから数日。 俺は部屋で一人、答えの出ない難問に頭を抱えていた。 ジジイの元へ行きたい。だが、あの鉄壁の拒絶を突破する論理的な「言い訳」が見つからない。 「木こりの子が農業を学びたい」……。この村の強固な世襲観念を納得させるだけの大義名分が必要だ。


「はぁ……どうしたもんか……」


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