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キングスレイヤー序  作者:


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39/85

39.商人の驚愕と板バネの真価

数日後。

アサータクがやってきた。今回はいつもの荷馬車ではない。

「やあ、アーノル君! 約束通り、仲間を連れてきたよ!」

彼が引き連れてきたのは、頑丈な荷馬車を3台連ねた小規模な商隊だった。

「おじさん、大掛かりだね」

「君の手紙に『最高級の酒ができた』なんて書いてあるからだ! 仕入れの準備は万端だぞ」

アサータクは興奮気味に馬車から飛び降りた。

そして、倉庫に案内され、試飲の一杯を口にした瞬間――彼は崩れ落ちそうになった。

「…………神よ」

その反応は、村の職人たち以上だった。

「これは……酒じゃない。液体の宝石だ。……これを本当にこの村で作ったのか?」

「ええ。僕には苦くて飲めませんけど、父さんたちは大絶賛してます」

「買う! あるだけ全部買うぞ!!」

「ダメですよ。村の分も必要ですから。……約束通り、15樽をお譲りします」

「15樽か……! くぅ、惜しいが仕方ない」

アサータクは悔しがったが、すぐに真剣な顔で荷台の「仕掛け」を指差した。

「実を言うとな、15樽もの酒を運ぶのは命懸けなんだ。普通の馬車なら、重さと振動で樽が割れて中身が漏れるか、車軸がへし折れる」

馬車一台につき5樽。重量にして数百キロ。

泥道を走れば、その衝撃は凄まじいものになる。

「だが、君がくれたこの『板バネ』があるから、俺は強気になれた。これのおかげで、重い液体を運んでも荷台が跳ねない。……アーノル君、君の発明がこの商売を可能にしたんだ」

積み込みが始まった。

黒鉄の板バネがギシッと軋み、グッと沈み込むが、見事に重量を支え、衝撃を吸収している。

アサータクは、この村の年収数年分に相当する金貨と、注文していた本、そしてロバーソンへの差し入れ(少し良い肉の燻製と小さな革鎧)を置いていった。

「アーノル君。この酒は『クルムの琥珀』として、俺が責任を持って王都の裏ルートで流行らせる。……大金持ちになる準備はしておけよ?」

アサータクはウィンクをして、黄金を積んだ車列と共に去っていった。

その背中を見送りながら、アーノルは手に入った資金の使い道を計算していた。

すべては順調。

順調すぎるほどに。


アーノルは去りゆく馬車ではなく、冬の空気が漂い始めた北の空を見上げた。



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