36.未来視への道
季節は巡り、森の木々が赤や黄色に色づく秋が訪れていた。
早朝の空気は、春よりもさらに冷たく澄んでいる。
「……」
アーノルは森の入り口で、石像のように静止していた。
以前のような腕立て伏せや走り込みはしていない。今の彼が行っているのは、脳神経の「最適化」だ。
未来視という膨大な情報量を処理し、肉体へ伝達する回路。それを焼き切れるほど太く、速く繋ぐためのイメージトレーニング。
(思考を消せ。反射を研げ)
カサッ。
背後の茂みが微かに揺れる音。
(――来た)
アーノルの脳裏に、チカッとノイズが走る。
『左斜め後ろから、小石が右耳を狙って飛来する』
その未来が見えた瞬間、アーノルの体は思考を介さずに動いていた。
ヒュンッ。
首を数センチ傾けた直後、風切り音が耳元を通り過ぎ、前方の大木にカツンと石が当たった。
「……すごい。完全に読んでる」
茂みからロバーソンが姿を現した。
彼の手にはまだ数個の石が握られている。今の投擲は、大人の狩人でも気配を察知できないほどの隠密動作からの奇襲だった。
「まだまだだよ。見えてから体が動くまでのラグが、まだほんの少しある」
アーノルは目を開け、自分の掌を見つめた。
「それに、連続して来られると処理落ちする。……ロバーソン、もう一度だ。今度は殺気をもっと消してくれ」
「ん。わかった」
二人の天才児による、静かで高度な修練は、朝日が昇るまで続いた。




