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キングスレイヤー序  作者:


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35/69

35.黄金の麦と商人の皮算用


そして、商談の本番はここからだ。

アーノルはバテンを呼び寄せた。

「今回は、これを見てください」

バテンが麻袋を開くと、そこには黄金色に輝く麦が詰まっていた。

農王のスキルで土壌改良され、厳選された最高品質の麦だ。

「いい麦だ。粒が大きく、揃っている。……だが、ただの麦か?」

「いいえ。これで今、バテンさんと『特別なもの』を仕込んでいるんです」

アーノルは、小屋の奥にある温度管理された発酵樽を指差した。

「この麦と、綺麗な水で作る琥珀酒です。まだ発酵の途中なので飲めませんが……上手くいけば、次の秋におじさんが来る頃には、最高の酒が出来上がっていますよ」

バテンが樽の蓋を少しだけ開けると、ふわりと甘く芳醇な香りが漂い出た。

まだ完成していないにも関わらず、その香りはアサータクの鼻腔をくすぐり、商人の勘を強烈に刺激した。

「……ほう。この香り、ただのエールじゃないな?」

「ええ。雑味を取り除き、透き通るような黄金色の酒になる予定です。王都の貴族が飲んでいるワインなんかより、ずっと美味くなりますよ」

アサータクの目が、カッと見開かれた。

彼の脳内で、黄金色の硬貨が積み上がる音が聞こえたようだった。

「素晴らしい! さすがはアーノル君だ。その酒、完成したら俺が全て買い取ろう!」

アサータクは興奮気味にまくし立てた。

「王都では今、新しい嗜好品が求められているんだ。そんな極上の酒があれば、飛ぶように売れるぞ! 貴族たちは見栄っ張りだからな、美味くて珍しいものには糸目をつけない」

「ええ、ぜひお願いします」

アサータクは豪快に笑った。

「ハハッ! 楽しみが増えたな。俺はこれでも国を跨ぐ商人だぞ? 上手いこと売り捌いてやるさ。君たちは作ることに専念してくれればいい。……ああ、次の秋が待ち遠しい!」

アサータクは上機嫌だった。

彼には、この商品が持つ莫大なポテンシャルしか見えていなかった。

この極上の酒が、どれほどの富を村にもたらしてくれるのか、期待に胸を膨らませていたのだ。

「期待してますよ、おじさん」

アーノルもまた、アサータクの自信満々な態度に安心していた。

板バネで腰の痛みが消えたアサータクは、相場よりかなり良い値で麦と試作石鹸を買い取り、さらにアーノルが欲しがっていた数冊の本と、ガラス瓶などの実験器具を置いて去っていった。

快適に揺れる馬車を見送りながら、アーノルは手に入れた金貨の重みを感じていた。

これで、次への準備ができる。

秋には酒が完成する。そうすれば、もっと大きな金が動くはずだ。

アーノルたちは、輝かしい未来を信じて、希望に満ちた春を迎えていた。



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