34.商人の腰痛と黒いバネ
数日後。
泥濘に車輪を取られながら、アサータクの荷馬車が村へと到着した。
「やあ、アーノル君……。いてて……」
馬車から降りてきたアサータクは、腰をさすりながら顔をしかめた。
「お疲れ様です、アサータクさん。道、悪かったですか?」
「ああ、最悪だ。雪解けのデコボコ道で揺られ続けて、俺の腰も、積んでたガラス瓶も粉々になりそうだよ」
アサータクは嘆きながら、それでも商品の積み下ろしを始めようとする。
アーノルは、ここぞとばかりに提案した。
「おじさん。その腰の痛み、少し楽にしてみませんか? 実験中の部品があるんです」
アーノルは「黒鉄の枝」を薄く削ぎ、重ねて革紐で縛り上げた部品を取り出した。
ロバーソンとガリオンに手伝わせて、アサータクの馬車の車軸と荷台の間に強引に噛ませる。
「……木の板? これで何が変わるんだ?」
半信半疑のアサータクを御者台に乗せ、ロバーソンが後ろから荷台を揺らす。
ギィ……フワッ。
ガツンという衝撃が来ない。波に揺られるような、不思議な浮遊感。
「……!? おい、なんだこれは」
アサータクが目を見開き、何度もお尻を浮かせたり座ったりした。
「『板バネ』です。枝のしなりを利用したクッションですよ。まだ試作段階ですけど、おじさんの馬車で試してほしくて」
「素晴らしい……! まるで雲の上だ! これなら卵を運んでも割れないぞ!」
アサータクは感動し、すぐさまこの馬車で王都まで帰って耐久テストをすると快諾した。
「あと、これもどうですか?」
アーノルは、木箱に入った茶色い固形物――試作の石鹸を差し出した。
アサータクは鼻を近づけ、少し顔をしかめた。
「……獣臭いな。なんだこれは?」
「『石鹸』です。服の汚れがよく落ちますよ。まだ匂いがきついので安物ですけど、平民向けの洗濯用なら売れませんか?」
アサータクは少し考えた後、一つ手に取った。
「なるほど、固形で使いやすそうだ。匂いは気になるが……まあ、汚れ落ちが良いなら安値でなら捌けるかもしれん。ついでに預かっていこう」
石鹸の反応はそこそこだったが、板バネのインパクトが強かったおかげで、商談の雰囲気は良好だった。




