33.黒い丸太の墓場と獣脂の試作品
雪解けが進み、春の足音が聞こえ始めた頃。
村と森の境界線から少し離れた荒れ地には、異様な光景が広がっていた。
そこには、苔むした黒い巨木が数百本も転がっているのだ。
「黒鉄の丸太の墓場」。
かつて、村人たちがこの硬い木を利用しようと、丸太を下に敷いて転がすという過酷な重労働で森の外へ運び出した残骸だ。
結局、加工が難しすぎて利用価値が見出せず、そのまま放置されたものだが、森から一定距離を離したことで消滅を免れ、数十年もの間、朽ちることなくそこに存在し続けていた。
「……もったいないけど、今の僕の力と手持ちの道具じゃ、あの巨木は加工できないな」
アーノルはその墓場を横目に見つつ、ため息をついた。
もちろん、父ガリオンたち大人の男が数人がかりで挑めば切ることはできる。だが、それは朝から昼まで斧を振るい続けてようやく一本、というレベルの重労働だ。
子供の思いつきの実験のために、そんな労力を割いてくれとはとても頼めない。
「まずは、手元にあるもので何とかするしかないか」
アーノルは視線を戻し、二つの実験に取り組んでいた。
一つは、父に頼んで持ち帰ってもらった「黒鉄の枝」を使った工作。
そしてもう一つは、目の前の鍋で煮込まれている「石鹸」の試作だ。
「うっぷ……臭いな」
鍋からは、独特の獣臭さが漂っている。
材料は、狩猟で出た余り物の獣脂と、家の竈から出た普通の木の灰だ。
前世の知識を使って「塩析(塩を加えて不純物を分離させる工程)」を行い、なんとか固形化することには成功した。
だが、精製技術が未熟なのと、灰の質が普通であるため、出来上がったのは茶色っぽく、獣の脂の匂いがきつい塊だった。
「汚れは落ちるけど、この匂いじゃ貴族の奥様方は使わないな……。洗濯用が関の山か」
アーノルは苦笑しつつ、試作石鹸を木箱に並べた。
黒鉄の木を燃やして純白の灰を作れば、もっと良いものができるかもしれないが、今の火力設備ではそれも叶わない。
今は、この「臭いけど固まる石鹸」と、もう一つの発明品で勝負するしかない。




