32.覚悟と蝋燭の灯り
夜。
家族が寝静まった部屋で、アーノルは机に向かっていた。
昼間のロバーソンの言葉が、胸の中で反響している。
『お前を見てると、俺も農民じゃなくていい気がしてくる』
(……責任重大だな)
自分がレールを外れたことで、友人の人生も変えてしまったのかもしれない。
だが、ロバーソンのあの強い瞳は、誰に言われたからでもなく、彼自身の意思で選んだ道を示していた。
机の上には、アサータクへの提案書。
その横で、アーノルは自分の手のひらを見つめた。
「見る力」の制御は、相変わらず進まない。
だが、焦ってはいけない。ロバーソンがあれだけの覚悟で積み上げているのだ。自分も、地道に積み上げるしかない。
ふと、視界がチカッと瞬いた。
(……!)
脳裏に浮かんだのは、『蝋燭の炎が揺らぎ、消える』映像。
その直後。
ヒュウッ……。
窓の隙間風が吹き込み、フッ、と炎が消えた。
「……また、これか」
暗闇の中、アーノルは苦笑した。
見えたのは、ほんの数秒先の些細な未来。
だが、確実に「見えた」。
「……タイミングは合ってきた。あとは、これをどう使うかだ」
アーノルは暗闇の中で羊皮紙を手探りし、最後の行に書き加えた。
『目標:ロバーソンに、自警団の古着か木剣を調達する』
アサータクが来たら、子供用の装備がないか聞いてみよう。
お菓子で釣るような相手じゃない。あいつは、対等な「戦友」になる男だ。
アーノルは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
未来を変えるための準備は、まだ始まったばかりだ。




