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ヤング キングスレイヤー  作者:


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28/33

28.帰還と父の涙

銀色の機械蛇がピタリと止まったのは、砦からほど近い、見覚えのある獣道の入り口だった。

『――ここまでです』

頭の中にシステムの声が響くわけではないが、蛇の動きがそう告げていた。

蛇はくるりと身を翻すと、茂みの中へシュルシュルと消えていった。同時に、周囲の気配から漂っていた「絶対的な安心感」――見えない蜘蛛の群れの気配も、潮が引くように森の奥へと去っていく。

アーノルは一人、薄暗い森に残された。

「……はぁ。夢じゃなかったな」

肋骨の痛みはない。体の重さもない。

先ほどまで死にかけていたのが嘘のように、体調は万全だった。

だが、そこでアーノルは自身の姿を見て、ハッとした。

「……まずい」

服は猪に吹き飛ばされた時にあちこち破れ、泥だらけだ。

しかし、その隙間から見える肌は、白くツヤツヤとしており、傷一つない。

さっきの治療ポッドが完璧すぎたのだ。

「巨大な猪に吹き飛ばされて森の奥へ消えた子供が、無傷で帰ってきたら……怪しまれる」

アーノルは即座に行動した。

足元の泥を掬い取り、顔や腕、破れた服の隙間から見える肌に塗りたくる。

さらに、あえて木の枝で腕を軽く引っ掻き、血を滲ませた。

「痛っ……くそ、何やってんだ僕は」

自作自演の演出。だが、これも生き残る知恵だ。

「奇跡的に助かった」のと「ありえない力で無傷だった」のでは、周囲の反応が天と地ほど変わる。

準備を整え、アーノルは息を切らしてフラフラと歩き出した。

わざと足を引きずり、悲壮感を演出する。

「……父さん……」

声を張り上げようとした、その時だった。

「――アーノルッ!!」

森の空気を切り裂くような、悲痛な叫び声が聞こえた。

ガリオンの声だ。

「父さん……! ここだよ!」

アーノルが声を返すと、前方の藪が乱暴に薙ぎ倒され、大斧を持った巨体が飛び出してきた。

その後ろから、チャムソンや兵士たちも続いてくる。

ガリオンは泥だらけのアーノルを見つけると、斧を放り出し、獣のように駆け寄ってきた。

「アーノル!!」

ドスンッ! と強い衝撃。

ガリオンは勢いのまま膝をつき、アーノルを強く、骨が軋むほどの力で抱きしめた。

「無事か……! 無事なのか……!!」

いつもは無口で厳格な父の声が、震えている。

鎧越しの体温と、泥と汗、そして獣の血の匂い。

アーノルは父の背中に手を回し、その震えを感じ取った。

「うん……父さん、苦しいよ」

「おお、すまん……すまん!」

ガリオンは少し体を離し、アーノルの顔を覗き込んだ。

その目には、大粒の涙が浮かんでいる。

「猪に飛ばされたと聞いて……もう駄目かと……」

「すごい運が良かったんだ」

アーノルは、用意していた「嘘」を口にした。

「飛ばされた場所が、ちょうど大きな木の根元の隙間だったんだ。猪は体が大きすぎて入ってこれなくて……。ずっとそこで震えてた。静かになったから、怖かったけど出てきたんだ」

単純だが、この森の巨木の大きさを知る者なら納得できる理由だ。

チャムソンが安堵の息を吐きながら近づいてきた。

「よかったなぁ、ガリオン。この森の根元は天然の要塞みたいなもんだ。精霊が守ってくれたのかもな」

「ああ……本当によかった」

ガリオンは再びアーノルを抱きしめ、今度は子供のように男泣きした。

兵士たちも「奇跡だ」と驚きつつも、胸を撫で下ろしている。

アーノルは父の腕の中で、罪悪感と同時に、別の感情を抱いていた。

(ごめん、父さん。本当のことは言えない。……でも、僕は生き延びたよ)



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