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ヤング キングスレイヤー  作者:


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24/37

24.刹那の未来視

「ガアアアアッ!!」

地響きのような咆哮と共に、森の闇から巨大な影が飛び出してきた。

体長3メートルはあろうかという、全身が黒毛に覆われた凶悪な魔獣化した熊だ。

「ヒッ、な、なんだあれは!?」

休憩明けの兵士たちが腰を抜かす。

「……構えろ」

ガリオンは短く告げると、大斧を構えて兵士たちの前に盾として立ちはだかった。

無駄口は叩かない。背中で語る父の姿に、自警団の男たちも無言で槍を構え、チャムソンも即座に矢をつがえた。

ヒュンッ、ドスッ!

矢は正確に熊の肩に突き刺さるが、熊は止まらない。

ガリオンが真正面から熊の爪撃を受け止め、火花が散るような衝撃音と共に押し返す。

「フンッ!!」

裂帛の気合いと共に放たれたガリオンの一撃が熊の体制を崩し、その隙に他の団員たちが槍を突き入れる。

無駄のない連携。巨獣は轟音と共に地に伏した。

遠くの茂みに隠れて見ていたアーノルは、ホッと息を吐いた。

(やっぱり、父さんは強い……)

そう安堵し、父の背中を見つめていた、その時だった。

ガリオンがふと、何かの気配を感じたように鋭く視線を巡らせた。

「……ッ、アーノル!」

父の短く、鋭い警告の声。

だが、その視線の先――先ほどの熊とは全く違う方向、アーノルの死角となる真横の藪から、音もなく黒い影が飛び出した。

二匹目。

それも、完全にアーノルだけを狙った奇襲だった。

熊は瞬きする間もなく距離を詰め、その丸太のような腕を振り上げた。

死ぬ。

アーノルの思考が白く染まる。

鋭い爪が、自分の頭蓋骨を粉砕する映像が脳裏に焼き付いた。

(あ……避けられない)

視界の中で、爪が振り下ろされる。

アーノルは反射的に身を竦め、来るはずの死の衝撃を待った。

――しかし。

(……え?)

来ない。

「死んだ」と思ったその瞬間、痛みは訪れず、ほんのわずかな「間」があった。

まるで、自分の認識だけが先に進んでしまい、現実が遅れてやってくるような奇妙なズレ。

そのコンマ数秒のズレが、アーノルの体を無意識に動かしていた。

地面を転がるように頭を下げた、その直後。

ブォンッ!!

豪風と共に、「実体」の爪がアーノルの頭があった空間を薙ぎ払った。

髪の毛数本が切り飛ばされる。

避けきれないタイミングだったはずだ。なのに、体が勝手に「未来の死」に反応して動いていた。

(……なんだ、今の感覚は)

呆然とする暇はない。

ガリオンたちが駆け寄ろうとするが、熊が立ちはだかり、彼らを牽制している。

このままでは殺される。

アーノルは震える足で立ち上がり、反射的に森の中へと走った。

「ハァッ、ハァッ……!」

背後から、ズシン、ズシンという重い足音が迫る。

草を踏みしめる音、落ち葉が押し潰される音が、恐ろしいほどの至近距離で響く。

この森の木は鉄のように硬い。

熊といえど容易になぎ倒すことはできないため、普通の森のような「木々が倒れる派手な音」はしない。

その代わり、硬い幹に爪が擦れる嫌な音と、障害物を縫って迫ってくる獣の荒い鼻息だけが、生々しく耳にこびりつく。

(来る……!)

背後の気配が膨れ上がる。

脳裏に「右肩が抉られる」イメージが浮かぶ。

アーノルはそのイメージに従い、地面に伏せた。

一瞬遅れて、頭上の幹に爪が突き刺さる音。

(やっぱり、ズレている……! イメージが先で、実体が後だ!)

これは「未来視」だ。

死の直前、極限状態になった脳が、わずか先の未来を「眼」を通じて捉えているのだ。

そのタイムラグを利用すれば、子供の足でも、この迷路のような硬い巨木の森なら逃げ回れるかもしれない。

アーノルは巨木を盾にし、必死に父たちが追いつくのを待とうとした。

だが、運命は過酷だった。

「ブモオオオオッ!!」

熊の咆哮に驚いたのか、横合いの藪から巨大な猪が突進してきた。

戦車のような質量。

未来視で衝突が見えたが、回避するスペースがない。

「ぐあっ!?」

ドォン! という衝撃。

アーノルは木の葉のように吹き飛ばされた。

幸い、まともに牙で突かれたわけではなく、体当たりを食らった形だったが、小さな体は軽々と宙を舞い、森の奥深くへと放り込まれてしまった。



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