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ヤング キングスレイヤー  作者:


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21/36

21.忘却された「禁忌」

季節は巡り、アーノルは6歳になっていた。

アサータクとの契約は順調に履行されていた。彼が村に来るたびに持ち帰る「本」は、この閉鎖的な世界に生きるアーノルにとって、酸素と同じくらい重要な生命線だった。

歴史、地理、自然科学、工学……。

ジャンルを問わず、手に入る限りの書物をアーノルは貪るように読み耽った。文字通り「乱読」とも言えるその行為によって、彼の脳内にはこの世界の知識が急速に構築されていった。

だが、読み進めれば進めるほど、アーノルの中に巨大な「違和感」が膨れ上がっていった。

(……ない。不自然なほど、どこにも載っていない)

あらゆる分野の本を読んでも、「ある一つの事象」に関する記述だけが、まるで最初からこの世に存在しなかったかのように、綺麗さっぱり抜け落ちているのだ。

「なぁ、おじさん」

ある日、商品の搬入に来たアサータクに、アーノルは何気なく尋ねた。

「色々な本を読んだけど、『魔法』について書かれた本が一冊もないんだ。不思議な力とか、魔力とか……そういうのはないの? あの儀式の光だって、不思議じゃないか」

その瞬間だった。

アサータクの表情が凍りついた。

彼は血の気が引いたように顔を青くし、鋭い視線で周囲を警戒すると、強い力でアーノルの口を塞ぎ、荷馬車の奥へと押し込んだ。

「……っ! 馬鹿野郎!!」

いつもの飄々とした態度は消え失せ、その声は恐怖に震えていた。

「いいか、二度とその言葉を口にするな。……死にたいのか?」

「……え?」

ただならぬ気配に、アーノルは息を呑んだ。

「お前、どこでその言葉を覚えた? ……いや、どこでもいい。とにかく忘れろ」

アサータクは声を極限まで潜め、アーノルの耳元で早口にまくし立てた。

「いいか、アーノル。普通の人間なら、お前が今言った単語を聞いても、意味すらわからねぇだろうよ。とっくの昔に人々の記憶から消え去り、御伽噺の中にすら残っていない概念だ。……一般人は、その存在すら知らねぇんだよ」

「……存在すら、知らない?」

「ああ。だが、俺は商人だ。国を跨いで商売し、裏の事情や各国の危ない噂も耳に入ってくる立場だからこそ『知ってしまっている』だけだ」

アサータクの瞳には、明確な怯えがあった。それは迷信を恐れる子供の目ではなく、実在する強大な権力と暴力に対する、大人の恐怖だった。

「それは『悪しき力』だ。太古の昔、世界を滅ぼしかけた禁忌の業……。そう定義され、歴史から抹消されたんだ」

「誰に?」

「……『ポルム教』だ。奴らは、そういう存在を滅ぼすためにあると言われている。奴らの耳に入れば、ただじゃ済まない。異端審問にかけられて、村ごと焼かれることだってあり得るんだぞ」

アサータクは脂汗を拭いながら、真剣な眼差しでアーノルを見据えた。

「俺のような汚れ役の商人でさえ、この話をする時は震えが止まらねぇ。頼むから、俺の前でも、誰の前でもその話はするな。……知らなくていいことなんだ」

アーノルは無言で頷いた。

アサータクは「わかればいい」と短く言い捨て、逃げるように作業に戻っていった。

(……なるほど。そういうことか)

アーノルは自分の視界の隅に常に表示できる「眼」の情報を確認する。

そこには明確に**【魔力:F】**という項目がある。

自分にも、ケニにも、アサータクにも、この数値は存在する。儀式の光も魔力だった。システムとして「魔力」は確実に存在しているのだ。

だが、社会的には認知すらされていない。

ポルム教という巨大な力によって、情報が統制され、歴史から、そして人々の記憶から意図的に削除されているのだ。

(それを知っているのは、アサータクのような一部の情報通だけ……か)

不気味な空白の理由がわかった。だが、それは同時に「魔力」について調べること自体が、命に関わるリスクであることを意味していた。


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