2. 誤算だらけのセカンドライフ
俺は、無事転生した。
そして転生したら絶対にやりたいことがあった。赤ん坊の頃から魔力を練り、三歳で高度な数式を解き、親に「この子は神童だ!」と腰を抜かさせる。
そう神童ルートである。
しかし、現実は非情であった。
自我を完全に取り戻した今、俺は既に五歳になっていた。
なぜこうなった。おそらく、幼児の脳のキャパシティに対して、前世の記憶がデカすぎたのだろう。おまけに、混濁した記憶のせいで、俺はこれまで「できの悪い、奇行の目立つ子供」として扱われていたらしい。
想像してみてほしい。4歳のガキが突然「仕様変更の報告書を……」とか日本語で呟き出すんだ。親ならずとも不気味だろう。村の大人たちが俺を見る目がどこか遠いのは、きっとそのせいだ。
さらに最大の問題がある。
(……伯爵家に転生させてくれるって話はどうなったんだよ。あの目玉野郎、絶対適当に投げただろ)
目の前に広がるのは、豪華な天蓋付きベッドではなく、隙間風の吹くボロ屋だ。
現在、俺がやっているのは「畑の手伝い」「家事の手伝い」、そして三歳の妹「ケニ」の子守だ。我が家は貴族どころか、その日の塩にも困るレベルの平民。神童ルートどころか、このままでは「村のちょっと物知りな平民」ルート一直線だ。
だが、あの目玉野郎が唯一くれた「お土産」だけは本物だった。
「ケニ、動くなよ」
地面に小石で絵を描いている妹、ケニ。
茶色い髪にクリクリした目。俺は「眼」に意識を集中した。
ケニ
3歳 女 健康
【戦闘】F 【頭脳】F 【器用】F 【幸運】E 【魔力】F
【能力】魅力
(魅力……。三歳にして既にスキル持ちかよ)
女の子でこの能力なら将来安泰だろう。さらに「魔力」の項目があるのが嬉しい。この世界に魔法があるのかは、この村の暮らしでは全くわからないが、希少な力であることは間違いなさそうだ。
次に、自分自身を鑑定する。
アーノル
5歳 男 健康
【戦闘】F 【頭脳】C 【器用】F 【幸運】C 【魔力】F
【能力】見る力
頭脳C。前世の記憶込みでこれか。幸運Cも平均的だろう。人との比較で理解していくしかなさそうだ。
「母ちゃん、ドンナのとこ行ってくる」
「ケニをちゃんと見てるんだよ」
母・ティプは、能力【農】をフル活用して雑草と格闘しながら生返事をした。
俺はケニの手を掴み、いつもの広場へ向かう。そこには、いつもの遊び仲間、ドンナと妹のルンナ、そしてロバーソンが既に集まっていた。
「遅いわよ、アーノル!」
腰に手を当てて立っているドンナは、農家の能力を持つ両親を持ち、自身も【農家】を持っている。
一方、ロバーソンの能力は【槍士】だ。彼の母親も【農家】なのだが、父親はまだ見たことがない。早く能力を確認して、遺伝の法則性を確かめたいところだ。
ロバーソンは頭脳も「E」あり、同じ年齢の子供と比べて高い。頭脳は生まれつきの知能と知識で決まるのかもしれない。
俺は子供らしく彼らと遊ぶ。広場を走り回り、森の近くで食べられそうな物を探しては大人に怒られる。
(……きつい。中身は大人の俺に、このエンドレスおままごとは過酷すぎる。早く自立したい……)
夕暮れ時。空がオレンジ色のグラデーションに染まる頃、俺たちはようやく解散した。
帰宅すると、家には父が既に帰っていた。床には、罠で捕ったのだろうウサギが二匹転がっている。
「ウサギ捕れたの?」
「お肉ぅ!」
ケニが歓喜の声を上げる。
父は無言で斧の手入れをしている。能力は【斧】。戦闘はD.いつも口数の少ない、仕事の厳しさを体現したような男だ。
晩飯は、ウサギの肉が少し入ったスープと、石のように硬い黒パン。
前世の基準から言えば、薄い塩味の質素な食事だが、ウサギが入っているだけでこれ以上なく美味しく感じるのだから不思議なものだ。
食事の後、家族で川の字になって寝る寝室で、俺は考える。
この大陸で、能力は人生に大きな影響を与えるはずだ。だが、皆は自分の能力を把握できない。
(この『見る力』をどう生かすか。とりあえず、この村で『ちょっと頭が変な子』から『頼りになるガキ』にクラスチェンジするのが先決だな……)
ケニの寝息を聞きながら、俺は本格的な生存戦略を練り始めた。




