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ヤング キングスレイヤー  作者:


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18/37

18. 悪友たちの杯と、商人の嗅覚

夜も更け、村は静寂に包まれていたが、狩人チャムソンの小屋からは、男たちの低い笑い声が漏れていた。

暖炉には赤々とした火が爆ぜ、部屋の中には獣脂と燻製肉の匂い、そしてアサータクが手土産として持参した隣町の蒸留酒の香りが漂っている。

車座になって杯を交わしているのは、この家の主である狩人のチャムソン、皮職人のブンカカ、そして商人のアサータクの三人だ。かつてこの村で共に育ち、泥だらけのみすぼらしい格好で野山を駆け回った悪ガキ仲間たちも、今ではそれぞれの分野で腕を磨く一人前の男になっていた。

「……それにしても、お前が良い服を着るようになるとはな。昔はツギハギだらけの服で、鼻水を垂らしていたのが嘘みたいだ」

皮職人のブンカカが、杯を揺らしながら苦笑交じりに言った。彼は分厚い手のひらでアサータクの肩を軽く叩く。その手は長年の作業で節くれ立っているが、その荒れ方はまだ父である熟練の職人の域には達していない若さを残していた。

「変わらないさ。ただ、商売相手に舐められないための鎧みたいなもんだ」

アサータクは肩をすくめ、自虐的に笑いながら友人の杯に酒を注ぎ足した。

「それより、お前たちこそどうだ。ブンカカの革細工はコミンでも評判だし、チャムソンの弓の腕もかなりのものだと聞くぞ」

「よせよ。親父たちの背中はまだ遠い」

チャムソンが焚き火に薪をくべながら、静かに首を振った。

「俺が森で気配を悟られる距離でも、親父は無音で近づく。ブンカカだってそうだろ? 親父さんのなめし技術にはまだ敵わん」

「ああ、まったくだ。あの世代の職人たちは化け物だよ」

ブンカカが同意し、場の空気が少しだけ真面目なものへと変わった。彼らは自身の成長に自負を持ちつつも、偉大な先達である父親たちへの畏敬を忘れてはいなかった。

「……だがな、アサータク。そんな親父たちが認めざるを得ない変化が、村で起きようとしている」

チャムソンの言葉に、アサータクは眉を上げた。

「例の役人の件か?」

「ああ。正直、肝が冷えたよ。俺たちもガリオンさんの号令で武器を取ったが、あの役人と争えばただでは済まなかっただろうからな」

ブンカカが深く頷き、真剣な表情で言葉を継いだ。

「ガリオンさんの息子……アーノルといったか。あの子は、ただの子供じゃない」

アサータクは杯を置いた。父・バテンが頑なに隠そうとした存在。そして、実直な友人たちが評価する子供。

「五歳の子供だろう? さっき親父の家で見かけたが、確かに子供らしからぬ、何か感じるものはあった。だが、そこまでか?」

「そこまでだ」

チャムソンが断言した。

「あの子が指示を出して、俺たちが手伝って作った『物』……あれは凄かった。ただ炭と砂を積んだだけに見えたが、あの子は水の流れや濾過の速度まですべて計算していたんだ。まるで、最初から完成形が見えているみたいにな」

ブンカカも身を乗り出した。

「俺は樽の加工を手伝ったんだが、あの子は木の焼き加減にまで注文をつけてきた。『焦がした層が香りを生む』なんて、俺たち職人でも考えもしなかった理屈だ。……そして実際に出来上がった酒は、泥水が黄金に変わったような代物だった」

二人の言葉には、単なる噂話や大げさな称賛ではなく、プロの職人として「未知の技術」を目の当たりにした時の純粋な驚きが込められていた。

「俺たちが作った酒が、あの強欲な役人を黙らせたんだ。……ガリオンさんの息子は、この村に何か新しい風を吹き込もうとしている。あの頑固なバテン爺さんが、協力してしまうのも頷けるよ」

アサータクは、杯の中の酒をじっと見つめた。

父であるバテンは、農業に関しては誰よりも厳しく、妥協を知らない男だ。その父が、その「技術」と「熱意」にほだされて、結果として協力させられてしまった。

これは、ただの「美味しい酒ができた」という話ではない。村の産業構造そのものを変えうる「発明」が生まれた瞬間なのだ。

「……そうか。親父が俺を追い返した理由がわかったよ。まだ、外に出すには早すぎると判断したのか、それとも村だけで守りたかったのか」

アサータクは杯を一気に干すと、真剣な眼差しで二人を見据えた。

「ありがとう、二人とも。大事な話を聞けた」

「おいおい、アサータク。まさか、あの子を利用して一儲けしようなんて悪い顔をするんじゃないだろうな?」

ブンカカが冗談めかして言ったが、その目は商人の友人を心配しているようでもあった。

「馬鹿言え。……ただ、良いモノってのは、然るべき場所に届けてこそ価値が出る。俺は商人だ。友人の村が豊かになるチャンスがあるなら、俺なりのやり方で手助けしたいだけさ」

アサータクはニヤリと笑ってみせたが、その頭の中では既に冷徹な計算と、新たなビジネスへの情熱が渦巻いていた。

彼は友人たちに別れを告げ、夜風の冷たい外へと出た。見上げた空には月が輝いている。

(ガリオンの息子、アーノルか。……親父やチャムソンたちがそこまで言うなら、俺も本気で値踏みさせてもらうとしよう)



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