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ヤング キングスレイヤー  作者:


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14/37

14. 琥珀のしずくと神父の差配

役人が呆然と立ち尽くす中、その芳醇な香りに耐えかねたのは、最前線で村人を威圧していた屈強な騎士の一人でした。彼は吸い寄せられるように歩み寄ると、役人の手元から半ば強引に樽を奪い取り、杯も使わずにその液体を一口煽りました。

「……っ!? な、なんだこれは……!」

騎士の目が、驚きに大きく見開かれました。

「喉を通る瞬間のこの滑らかさ、鼻に抜ける香ばしい余韻……。おい、これまで飲んできたどのライ麦酒とも格が違うぞ。これほど澄んだ味があるものか」

その感嘆の声を聞き、他の騎士たちもざわつき始めました。略奪という殺伐とした目的を忘れ、彼らの意識は目の前の未知なる美酒へと向いています。若者たちを縛っていた鎖を握る手からも、いつの間にか力が抜けていました。

「こ、これ! 勝手な真似を……!」

役人が慌てて樽を取り返そうとしますが、もはや広場の空気は変わっていました。「この村には、王子の生誕を祝うに相応しい特別な酒がある」という事実が、騎士たちの間に広がったのです。

しかし、このまま役人を恥じかかせ、追い詰めるだけでは事態は好転しません。権力者がメンツを潰されれば、彼らが去った後にどのような報復が来るか分からないからです。アーノルがそう確信した時、隣に立つ神父が、穏やかな足取りで役人の傍らへ歩み寄りました。

「役人殿。どうやら、この村の人々が王子のために用意した真心の深さは、本物のようですね。これほどの品を見つけ出し、無事に王都へ届ける功績……。それは、第二王子ジャミル様への何よりの献上物となるはずです」

神父は役人の耳元で、彼を立てるような絶妙な声量で言葉を続けました。

「若者たちを労役に出すよりも、この『辺境で見出された希少な美酒』を完璧な状態で届けた方が、王室からの評価も高いのではないでしょうか。この地を管理する役人殿の、優れた審美眼によって発見された逸品として」

役人は、引きつっていた顔をわずかに緩めました。神父は、「村が勝った」のではなく、「役人が素晴らしい献上品を見つけた」という筋書きを提示したのです。

「……うむ。神父様の言う通りだ。確かに、この酒には相応の価値がある。若者たちの供出は、この酒の献上をもって免除してやろう。ただし、輸送中に不手際があれば、その時は相応の責任を問うからな」

役人は、咳払いを一つして、威厳を取り繕うように頷きました。神父は満足げに微笑み、アーノルに視線を送りました。

「役人殿、賢明なご判断です。それでは、出発の準備が整うまで、教会で一休みされてはいかがですか? 旅の疲れを癒やすための温かい茶も用意しておりますよ」

神父の流れるような差配によって、不穏な空気は急速に収束していきました。アーノルは、立ち去る神父の背中を見つめました。

(……。字を教えてくれる親切な神父だと思ってたけど、なかなかの策士だな。……。まぁいい。これでとりあえず、俺の『平穏』と、ロバーソンの自由は守られたわけだ)


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