107. 基準点Cと、市場の有象無象
工房には「死体」が二つ転がっているが、見なかったことにして俺たちは街へ出た。
目指すは馬車を引くための動力――馬の調達だ。
「いいかアーノル。馬選びってのは商人の基本にして奥義だ」
レーマネの大通りを歩きながら、アサータクさんが得意げに語り始めた。
「ダメな馬を掴まされれば、納期は遅れ、荷物は傷み、最悪の場合、荒野の真ん中で立ち往生して野垂れ死ぬ。俺がこれまでの行商で生き残ってこれたのは、この『相馬眼』のおかげと言っても過言じゃねえ」
「なるほど。頼りにしてますよ」
「おうよ。俺の目は誤魔化せねえぞ」
俺たちはまず、庶民向けの『鉄の蹄鉄屋』という大きな馬市場へとやってきた。
そこは活気に満ちており、農家のオヤジや行商人たちが、何十頭もの馬を品定めしている。
「まずは相場を知るために、この辺の一般的な馬を見て回るぞ」
アサータクさんの後について、俺は繋がれている馬たちを眺めた。
人間を見るときと同じように、深く、焦点を合わせる。
すると――脳裏にいつもの文字列が浮かび上がった。
【鑑定完了】
種別:馬(茶)
速さ:D
頑丈:D
体力:E
気性:温厚
能力:なし
隣の馬も見てみる。
種別:馬(黒)
速さ:E
頑丈:D
体力:D
気性:鈍感
能力:【鈍感】
さらに奥の馬。
種別:馬(斑)
速さ:D
頑丈:E
体力:D
気性:臆病
能力:なし
(……ふむ。DとEばっかりだな)
俺は腕組みをした。
文字が出るのはいいが、俺には馬の知識がない。
この「D」という数値が、どの程度の能力なのか。
「E」というのは、使い物にならないレベルなのか、それとも愛嬌で済むレベルなのか。
基準がないから判断がつかないのだ。
「どうしたアーノル? 難しそうな顔をして」
「いえ……どれも似たり寄ったりに見えて、良し悪しの基準が分からなくて」
「はっはっは! 素人はそんなもんだ。毛艶だけ見ても中身は分からんからな」
アサータクさんは笑いながら、自分が乗ってきた愛馬の首をポンポンと叩いた。
「いいか、迷ったら『手本』を見るんだ。俺のこいつは、長年苦楽を共にしてきた相棒だ。飛び抜けた才能はないが、どんな仕事も確実にこなす優等生だぞ」
俺はアサータクさんの愛馬をじっと見つめた。
彼が絶対の信頼を置く、プロの商人の馬。
【鑑定完了】
種別:馬(鹿毛)
性別:牡
速さ:C
頑丈:C
体力:C
気性:従順
能力:【運搬】
(……なるほど! これが『基準』か!)
アサータクさんが「優等生」と呼ぶ馬が、オールC。
そして能力に、荷運びに特化した【運搬】がついている。
つまり、この世界の馬の基準はこうだ。
Dが「一般的」。
Eが「少し劣る」。
そしてCがあれば、それはプロが認める「優秀な仕事馬」ということになる。
謎は解けた。
俺は改めて市場を見回した。
……酷いもんだ。
ほとんどがDとEのオンパレード。
たまにCが一つ混じっている程度で、アサータクさんの馬のようにバランス良くCが揃って




