10. 農王への告白と「澄みわたる酒」
その様子を、バテンは少し離れた場所から眺めていた。 「……アーノル。貴様、あの『澄みわたる酒』をどうやって作るつもりだ」
アーノルは手に持っていた木彫りのナイフを置き、バテンの老いた眼を真っ直ぐに見据えた。「おじいさん。……。僕は、普通の子供じゃありません。僕の頭の中には、ここではない『遠い場所』の知恵が詰まってるんです。……。信じられないでしょうけど、酒を上等にするのに必要なのは、徹底した『濾過』と、木の中に眠る『良い成分』の抽出です。……。失敗すれば、ロバーソンも、この村も終わりです。……。おじいさん、力を貸してくれますか?」
アーノルは、自分が転生者であることを認めた。隠し通して村人の命が奪われるよりは、この老人に正体を晒す方がマシだと判断したのだ。 バテンは長い沈黙の後、フンと鼻を鳴らした。「……。やはりな。貴様のその、可愛げのない思考……ただのガキなわけがないと思っていた。……。いいだろう。その知恵、この村の命運と一緒に、俺が賭けてやる」
バテンの権威を借り、アーノルは村の腕利きたちを呼び集めた。大工の親方、革職人の老女、樽職人。 「つべこべ言うな。こいつの言う通りに動け」というバテンの一喝のもと、アーノルは精密な設計図を示した。 「この木の筒を。接続部は気密性を高く。精度が命です。髪の毛一本分の隙間も許しません」 最初は侮っていた職人たちも、アーノルの合理的かつ専門的な指示に顔つきを変え、村の技術の粋を尽くした多層濾過装置と二重構造の熟成容器が形作られていった。
作業が続く数週間、ロバーソンもアーノルの課したメニューをこなしていた。それは劇的な変身ではなく、五歳児としての限界を丁寧に拡張する地道なものだった。 「今日は切り株の上でケニをあやすんだ。でも、足元の切り株は一ミリも揺らすな」 ロバーソンは背負ったケニの重みに耐え、足裏の感覚を研ぎ澄ませる。無駄なフラつきが消え、重心を正確に把握する土壌が作られていく。 「……アーノル。ぼく、なんだか、地面が柔らかく感じる」 「いい感覚だ。それを忘れるな」 飛んでくる石を叩き落とせるのは三回に一回。それでも彼の中に「気配を察する」種が、静かに芽吹いていた。




