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幕間 ―観察の結論
夜の浴場。
湯気の向こうで、ルカは静かに身支度を整えていた。
「あら……お先に失礼しますわ」
その声。
(……やっぱり)
作った声音ではない。
喉に力も、間もない。
思考より先に出る、自然な口調。
リネットは眼鏡を外したまま、視線を落とす。
歩き方。
肩の力の抜け方。
人と距離を取る時の、無意識の配慮。
(矯正じゃない)
教え込まれた“型”ではなく、
元から身についている“育ち”。
湯気越しに見えた横顔は、
昼よりも柔らかく、整っていた。
(……聖女候補の、ご令嬢)
それが一番、辻褄が合う。
教会が詳しい事情を語らない理由も。
周囲が腫れ物に触るように扱う理由も。
(疑う必要は、ない)
観察は終わった。
答えは出た。
「……おやすみなさい、ルカ様」
小さくそう告げると、
リネットは何事もなかったように浴場を後にした。
その背中には、
ひとつの確信だけが残っていた。




