基礎適性測定
共同授業、と聞いていた。
けれど実際の内容は、ルカの想像とは少し違っていた。
「本日の授業は、**聖力の“基礎適性測定”**です」
教頭の声が、講義室に静かに響く。
「現在の出力を測るものではありません。
聖力を受け止める“器”の反応を見る、初歩的な検査です」
壇上には、ひとつの測定器。
地下で見たものより、ずっと簡易な造りだった。
(……出力じゃない、適性)
それを聞いて、ルカはほんの少しだけ安堵する。
(なら……大丈夫なはず)
地下での暴走のあと、
教頭から「力は極力、動かさないように」と言われていた。
順番に生徒が呼ばれていく。
測定器は淡く反応し、
「安定している」「器が大きい」
そんな評価が淡々と続いた。
そして。
「次、ルカ・セリウス」
空気が、わずかに変わる。
(……落ち着いて)
ルカは壇上へ上がり、測定器にそっと手を置いた。
感情を動かさない。
何も考えない。
――反応は、ほとんどなかった。
水晶は、かすかに揺れただけ。
「……え?」 「今の、反応した?」 「聖女候補なのに……?」
小さな声が、確実に届く。
(……低い)
胸が、きゅっと縮む。
(地下では、あんなに……なのに)
周囲の視線が突き刺さる。
比べられている。
疑われている。
(おかしい、って……思われてる)
その瞬間。
測定器が、強く脈打った。
「……っ!」
水晶が眩く光り、
器の反応値が一気に跳ね上がる。
「適性が……急上昇!?」
ざわめきが広がる。
(やだ……また……)
力を抑えようとするほど、不安が増す。
不安が増すほど、測定器は反応する。
――そのとき。
「まあまあまあ」
壇上の下から、余裕のある声。
「数値なんて、朝の機嫌で変わるものですわよ?」
アリアだった。
にこやかに、けれどわざとらしく。
「それとも、ワタクシの同室は
緊張すると器が可愛く反応するタイプかしら?」
「……っ」
思わず、ルカはそちらを見る。
同時に、すぐ近くから短い声。
「……大丈夫?」
リネットだった。
それだけ。けれど、十分だった。
(二人が……いる)
胸の奥のこわばりが、すっとほどける。
「……ふふ」
小さく、息が漏れた。
その瞬間。
測定器の光は、ゆっくりと落ち着き、
やがて通常の反応へ戻っていった。
教室は静まり返る。
教頭は一拍置いてから、告げる。
「……記録は以上です。次に進みましょう」
ルカは壇上を降りる。
アリアが小声で囁いた。
「ほら。
心まで“ワタクシ”になってますわよ?」
「……もう……」
恥ずかしさに俯くルカを見て、
アリアは満足そうに笑った。
リネットは何も言わず、
ただ、そっと距離を保ったまま歩いていた。
(……感情が、引き金)
ルカ自身はまだ知らない。
この測定結果が、
「異常な低適性」でも
「異常な高適性」でもなく――
感情に応じて器そのものが変質する力だと、
教会に判断されることを。




