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感情と、制御できない力

学園本館・地下。

 結界が幾重にも張られた訓練室は、

 静かすぎるほど静かだった。

 中央に立つのは、ルカ。

 少し離れて、アリア。

 壁際に、校長と教頭。

 ――完全な内輪。

「緊張しなくていい」

 校長が穏やかに言う。

「今日は、

 君の力の“性質”を確認するだけだ」

「……はい」

 ルカの声は、硬かった。

 教頭が一歩前に出る。

「まず、何も考えずに

 “癒し”を意識してみなさい」

 ルカは、目を閉じる。

 呼吸を整え、

 力を探す――

 ……何も、起きない。

「……出ません」

「予想通りだ」

 教頭は即答した。

 アリアが、眉をひそめる。

「どういうこと?」

 校長が、代わりに説明する。

「ルカの力は、

 命令型ではない」

「……命令型?」

「集中すれば出る、

 祈れば発動する――

 そういう力じゃない」

 教頭が続ける。

「過去の発動記録を洗った」

 机の上に、書類が広げられる。

「共通点がある」

 ルカは、嫌な予感がしていた。

「……発動しているのは」

 教頭の声が、低くなる。

「すべて、

 感情が強く揺れた瞬間だ」

 沈黙。

 アリアが、ゆっくりとルカを見る。

「……お風呂」

「……教室」

 思い出が、胸を刺す。

「驚き、恐怖、焦り、

 そして――」

 校長は、言葉を選びながら言った。

「“誰かを放っておけない”

 という衝動」

 ルカは、唇を噛んだ。

「……つまり」

 声が、震える。

「俺が、

 平常心でいられないほど……

 追い詰められた時にしか、

 力は出ない?」

「……そうだ」

 校長は、否定しなかった。

 教頭が、淡々と告げる。

「感情の起伏が大きいほど、

 癒しの精度と範囲が上がる」

「……最悪だな」

 ぽつりと、ルカが呟いた。

 アリアが、即座に言い返す。

「最悪じゃない」

「……いや、最悪だ」

 ルカは、顔を上げた。

「それじゃあ……

 誰かを助けるためには、

 俺が壊れなきゃいけない」

 訓練室の空気が、張り詰める。

 校長が、静かに首を振った。

「違う」

「……?」

「壊れる“直前”だ」

 その言葉は、残酷だった。

「君は、

 感情が臨界点に近づくと、

 力が溢れ出す」

「……それを、

 制御しろって?」

 教頭が、短く頷く。

「そうだ」

 アリアが、前に出る。

「……だから、

 私がいるんでしょ」

 ルカは、彼女を見る。

「私が止める」

 はっきりした声。

「感情が振り切れる前に、

 引き戻す」

 校長が、深く頷いた。

「アリアは、

 ルカの“錨”だ」

 ルカは、苦笑した。

「……重い役目だな」

「今さら」

 アリアは、肩をすくめる。

 教頭が、最後に告げる。

「今日の結論だ」

 訓練室に、声が響く。

「ルカ・セリウスの能力は――

 感情依存型・自己犠牲誘発型」

 ルカは、目を閉じた。

(……やっぱり)

(俺は、

 助けるために、

 壊れる役なんだ)

 その肩に、

 そっと手が置かれる。

 アリアだった。

「……一人で壊れるのは禁止」

 ルカは、小さく息を吐いた。

「……努力する」

 校長は、静かに言った。

「次の段階に進む」

「次……?」

「感情を揺らさずに、

 力の“端”を引き出す訓練だ」

 それは、

 最も難しく、

 最も危険な道。

 そして――

 避けては通れない未来だった。

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