表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/25

幕間 リネット・ハルトの視界

医務室の白い天井。

 リネットは、ゆっくりと瞬きをした。

 ――見える。

 それが、最初の感想だった。

 いつもなら、輪郭が曖昧で、

 色がにじんで、

 距離感が掴めない世界。

 でも今は。

 天井の細かなひび。

 カーテンの縫い目。

 窓の外を通る雲の形。

(……こんなに、はっきり)

 思わず、息を呑む。

 医務室の椅子に座り直し、

 そっと、手を見る。

 指の形。

 爪の先。

 全部、ちゃんとそこにあった。

(……夢じゃ、ない)

 でも――

 なぜ?

 額を打ったはずだ。

 視力が良くなる理由なんて、ない。

 ――浮かぶのは、あの瞬間。

 床に倒れた自分。

 集まる視線。

 逃げ場のない恐怖。

 そして。

「大丈夫ですの!?」

 あの声。

 慌てていて、

 場違いで、

 それでも――真っ直ぐだった。

(……ルカ、さん)

 名前を、心の中で呼ぶ。

 手を取られたときの温度。

 顔に触れられたときの、静かな熱。

 光はなかった。

 奇跡の演出も、なかった。

 ただ――

 治ってしまった。

 リネットは、胸に手を当てる。

(……怖い)

 正直な気持ちだった。

 これは、

 知られてはいけないことなのかもしれない。

 あの人も、

 必死に隠そうとしていた。

(……でも)

 思い出す。

 中庭での説教。

 俯いた背中。

 逃げたそうなのに、逃げなかった姿。

(……優しい人)

 優しい、だけじゃない。

 自分を後回しにする人。

 だからこそ――

 放っておけない。

 リネットは、メガネを外した。

 ぼやけない。

 世界は、変わらず、そこにある。

(……これは、私だけの秘密)

 少なくとも、今は。

 彼女は、そっと微笑んだ。

(……今度は)

(私が、見ていよう)

 声だけの人だった彼を、

 ちゃんと“見る”ために。

 静かな決意は、

 誰にも知られないまま、

 胸の奥に沈んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ