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説教と、逃げられない感謝

昼休み。

 人気のない中庭の端。

 ルカは、ベンチの前で立たされていた。

 正面には、腕を組んだアリア。

 ――怒っている。

 かなり。

「……で?」

 低い声。

「教室で、何をしたか。

 説明してもらおうか」

「……転んだ子を、助けた」

「口調」

「……助けました」

「どの口調で?」

「…………ワタクシ」

 アリアは、ゆっくりと額に手を当てた。

「……あなたね」

 深いため息。

「目立ちたくないって、

 昨日、何て言った?」

「……目立ちたくない」

「なのに」

 一歩、距離を詰める。

「教室の真ん中で、

 貴族令嬢ムーブかまして、

 しかも癒しまで発動させて」

「……無意識だ」

「一番タチ悪いやつ!」

 ぴしっと指を立てる。

「いい?

 あれは奇跡未満の奇跡」

「……」

「誰か一人でも確信したら、

 もう隠せなくなる」

 ルカは、俯いた。

「……でも」

 声が、小さくなる。

「……放っておけなかった」

 アリアは、言葉を止めた。

 しばらく、沈黙。

「……そこがね」

 声のトーンが、少しだけ変わる。

「あなたの、一番危ないところ」

 そのとき。

「……あの」

 控えめな声。

 二人は同時に振り向いた。

 そこに立っていたのは――

 リネットだった。

 今日は、きちんとメガネをかけている。

「あ、あの……

 お話中、でしたら……」

 アリアは一瞬ルカを見て、

 小さく息を吐いた。

「……いいよ。どうしたの?」

 リネットは、ぎゅっと手を握りしめる。

 そして、ルカの方を向いた。

 まっすぐに。

「……先ほどは」

 深く、頭を下げる。

「助けていただいて、

 本当に……ありがとうございました」

 ルカは、固まった。

「……あ」

「……転んだとき、

 すごく、怖くて……」

 リネットの声は震えていたが、

 逃げなかった。

「でも……

 視界が、戻って……」

 少しだけ、顔を上げる。

「……あなたの顔が、

 ちゃんと、見えました」

 ルカの喉が、鳴った。

「……だから」

 リネットは、はっきり言う。

「……お礼を、言いたくて」

 沈黙。

 アリアは、その様子を黙って見ていた。

 数秒後。

「……どういたしまして」

 ルカは、反射的に言ってしまう。

「……その、

 ご無事で……なにより、ですわ」

 ――しまった。

 アリアが、肩を震わせる。

「……そこは直そうか」

「……はい」

 リネットは、一瞬きょとんとして、

 それから小さく笑った。

「……不思議な話し方ですね」

「……忘れてくれ」

「……いえ」

 リネットは、首を振った。

「忘れません」

 その言葉は、

 はっきりしていた。

 アリアは、軽く咳払いをする。

「……感謝は受け取った?」

「……受け取った」

「じゃあ」

 ルカの肩に、ぽんと手を置く。

「次は、

 自分を守る練習ね」

「……難しそうだ」

「でしょ」

 アリアは、少しだけ笑った。

 リネットは、その二人を見て思う。

(……この人は)

(守られる側で、

 守る側でもある)

 だからこそ――

 目を離してはいけない。

 そう、静かに決めた。

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