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校長室・情報管理会議

学園本館、最上階。

 重厚な扉の向こう――

 そこは、生徒が決して足を踏み入れない場所。

 校長室。

「……報告は以上です」

 アリアが一礼すると、

 室内に短い沈黙が落ちた。

 窓際に立つのは、校長。

 机の前に腕を組んでいるのが、教頭。

 二人とも、今は完全に大人の顔をしていた。

「口調事故が発生した、と」

 校長が淡々と言う。

「はい。

 しかも、第三者に聞かれました」

「誰だ?」

「リネット・ハルト。

 視力に難があり、夜間は特に視認能力が落ちます」

 教頭が、手元の書類をめくる。

「……観察型か」

「ええ。

 目は悪いですが、耳と頭はいいタイプです」

 校長は、ゆっくり椅子に腰掛けた。

「致命的か?」

「現時点では、いいえ」

 アリアは即答した。

「ただし、

 “違和感”としては残ったはずです」

「それで十分だ」

 教頭が低く言う。

「違和感は、

 賢い子ほど裏取りを始める」

 室内の空気が、重くなる。

 校長は、ふっと息を吐いた。

「……やはり、

 同室をアリアにした判断は正解だったな」

「はい」

 アリアは、少しだけ拳を握る。

「私が、盾になります」

「それが目的だ」

 教頭は視線を鋭くする。

「ルカは“聖女候補”としては異常値だ。

 力、精神、背景――

 どれを取っても」

「加護の数が多すぎる」

 校長が静かに続ける。

「癒しの神々が、

 壊れる前に無理やり救った結果だ」

「結果、性別判定が“聖女”に固定された」

 教頭の言葉には、皮肉が混じる。

「……本人は、

 まだ自覚していません」

 アリアが言う。

「それでいい」

 校長は、即座に答えた。

「自覚した瞬間、

 彼は“自分を削ってでも”役割を果たそうとする」

 沈黙。

 アリアは、唇を噛んだ。

「それだけは……

 させません」

「だから君がいる」

 校長は、真っ直ぐにアリアを見る。

「君は“聖女候補”だが、

 同時に“防波堤”だ」

「……はい」

 教頭が、話題を戻す。

「リネット・ハルトへの対応は?」

「監視はしない」

 校長は、首を振った。

「監視は疑念を生む」

「では?」

「観察を、観察する」

 教頭が、わずかに笑った。

「なるほど」

「彼女が“気づく側”なら」

 校長は言う。

「いずれ、

 こちらが使う側になる」

 アリアは、はっとした。

「……利用、するんですか?」

「保護だ」

 校長は即座に訂正する。

「真実に近づきすぎる子は、

 守らなければならない」

 教頭は腕を組む。

「……それで、

 ルカ本人への指導は?」

 校長は、少し考え――

 ため息をついた。

「口調教育は、継続」

「ですよね」

「ただし」

 校長は、真顔で付け加える。

「ワタクシは禁止」

 アリアは、思わず吹き出した。

「了解です」

「貴族令嬢は、

 この学園に一人もいらん」

 会議は、それで締めくくられた。

 *

 校長室を出たアリアは、

 廊下の窓から校庭を見下ろす。

 そこには、

 女子生徒たちに囲まれ、

 ぎこちなく笑うルカの姿があった。

「……ほんとに」

 アリアは、静かに呟く。

「守らせる気、満々じゃない」

 それでも。

 彼女は歩き出す。

 盾であることを、

 選んだのは自分だから。

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