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口調教育(強制)と第三者の視線

朝の女子寮。

 205号室――

 ルカは、ベッドの前に正座させられていた。

「……で?」

 アリアが、腕を組んで立っている。

「説明、どうぞ」

「……」

「“ワタクシ”はどこから来たの?」

 ルカは視線を逸らした。

「……無意識」

「無意識で貴族令嬢になる人、初めて見た」

「放っておいてくれ……」

 アリアはため息をつき、

 しかし妙に真剣な顔になる。

「いい? ルカ」

「……なに」

「ここ、聖女候補学校。

 変な目立ち方したら、即詰むから」

「……わかってる」

「だから」

 アリアは、びしっと指を立てた。

「口調矯正、始めます」

「え」

「今から私が言う文を、

 “普通の女の子”として言い直して」

「待て」

「はい、第一問」

 逃げ場はない。

「――『すみません、先に入っていました』」

 ルカは一度、深呼吸。

「……す、すみません……

 さ、先に……入って……」

 喉が詰まる。

「……い、いました」

「硬い」

「無理だ……!」

「はい、第二問」

 容赦がない。

「――『お先に失礼します』」

「……お、お先に……」

 ルカは、途中で力尽きた。

「……お先に、

 失礼……いたしますわ」

「戻った!」

「ごめん!」

 その瞬間。

 ――こんこん。

 控えめなノック音。

 二人は同時に固まった。

「……誰?」

 アリアが警戒しつつ扉を開ける。

 そこに立っていたのは――

 細身の少女。

 長い髪をきちんと結い、

 大きな丸メガネをかけている。

「あ、あの……

 同室の件で、案内を……」

 その声。

 ルカの背筋が、ぞくりとした。

(……昨日の)

 リネットだった。

 だが今は、

 メガネ越しにこちらをしっかり見ている。

 視線が合う。

 ――はず、なのに。

 リネットは一瞬、首を傾げた。

「……?」

 何かを探るような目。

 アリアが、にこやかに口を挟む。

「あ、ありがとう。

 ちょうど今、準備してたところ」

「……そうでしたか」

 リネットは、ちらりと部屋の奥を見る。

 正座したまま固まっているルカ。

 そして――

「……“お先に失礼いたしますわ”?」

 小さく、呟いた。

 空気が、止まった。

「……っ!!」

 ルカは、顔から火が出そうになった。

 アリアは一瞬黙り――

 次の瞬間、腹を抱えた。

「聞かれてたんだ」

「殺してくれ……」

 リネットは、慌てて首を振る。

「い、いえ!

 そ、その……悪気は……!」

「ううん、大丈夫」

 アリアは笑いを堪えながら言う。

「この子、

 ちょっと育ちがいい“設定”なだけだから」

「設定!?」

 リネットは、もう一度ルカを見る。

 昨日の夜に聞いた声。

 丁寧で、慌てていて、

 どこか必死だった――

 今、目の前にいるこの人と、

 確かに重なった。

(……やっぱり)

 彼女は、心の中で思う。

(あの人、だったんだ)

 ルカは、視線を逸らしたまま小さく言った。

「……忘れてくれ」

 リネットは、少し考えてから、

 小さく微笑んだ。

「……秘密、にします」

 その言葉に、

 ルカは初めて、彼女を見た。

 メガネの奥の瞳は、

 静かで、よく観察している目だった。

 アリアは、その様子を見て、

 何かを察したように呟く。

「……また厄介な人に見られたね」

 新しい日常は、

 少しずつ、

 綻びを見せ始めていた。

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