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女子寮・深夜のお風呂会

女子寮の消灯後。

 深夜の浴場は、湯気と静寂に満ちていた。

 水音が反響し、魔導灯の光が柔らかく揺れている。

 ルカは、肩まで湯に沈みながら息を吐いた。

(……誰もいない時間帯、のはず)

 初日の疲労と、張り詰めた神経。

 ここでようやく、一息つける――はずだった。

 ――きぃ。

 扉の軋む音。

(……え?)

 心臓が一拍遅れて跳ねる。

 湯気の向こうに、人影。

 細い肩、華奢な体格。

 だが、顔は湯気と暗さでよく見えない。

「……あ、あの……」

 かすれた、小さな声。

 ルカは反射的に、言葉を選ぼうとして――

 盛大に失敗した。

「も、申し訳ございませんわ!

 わ、ワタクシ、先客がおられるとは存じ上げず……!」

(――やってしまった)

 自分の声に、自分で驚く。

 沈黙。

 数秒後、相手がびくりと肩を震わせた。

「ひゃっ……!?

 あ、あの……!」

 声が裏返る。

「す、すみません……!

 わ、私も……誰もいないと思って……!」

 どうやら向こうも混乱しているらしい。

 ルカは、湯から出ないまま、

 距離を保って続ける。

「い、いえ……

 こちらこそ……

 その、すぐに退室いたしますので……!」

(私じゃなくて、ワタクシって何だ……!)

 相手は少し間を置いて、

 おずおずと言った。

「……あの……

 だ、大丈夫です……」

「?」

「わ、私は……

 この時間でないと……その……」

 声が、さらに小さくなる。

「人が多いのが、苦手で……」

 なるほど、と理解する。

「……でしたら」

 ルカは、咳払いをひとつ。

「ワタクシが先に上がりますわ。

 どうか、ごゆっくり……」

 言い切ってしまった。

 完全に貴族令嬢である。

「……あ、ありがとうございます……」

 その声は、ほっとしたように柔らいだ。

 *

 脱衣所。

 ルカは、頭を抱えた。

(何なんだ今の口調……

 アリアに知られたら、絶対に殺される……)

 着替えを終え、

 去り際に一言だけ残す。

「……あの」

「は、はい?」

「……お名前、伺っても?」

 一瞬の間。

「……リネット、です」

「……ルカ、と申しますわ」

(申しますわ、じゃない……!)

「……よ、よろしくお願いいたします」

「……はい」

 その返事を聞いて、

 ルカは足早に浴場を後にした。

 *

 一方、浴場。

 リネットは、湯気の中で首を傾げていた。

(……今の人……)

 視界はぼやけていて、

 顔はよく分からなかった。

 でも。

 声だけは、妙に印象に残っている。

 丁寧で、慌てていて、

 どこか必死で――

「……不思議な方……」

 そう呟き、

 そっと湯に沈む。

 *

 ――翌朝。

「ねえ、ルカ」

 アリアが、にやりと笑う。

「昨日の夜、

 “ワタクシ”って言った?」

「…………」

 ルカは、布団をかぶった。

「どこの貴族令嬢よ」

「聞いてたのか……」

「うん。ばっちり」

 アリアは肩をすくめる。

「まあ、可愛かったけど」

「やめろ」

 新しい日常は、

 静かに、しかし確実に――

 波乱を孕んで始まっていた。

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