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庭師の迷路

作者: purapura

お嬢様のご両親と庭師の話

「おまえがトーマス?」

日焼けした中年男が庭木の剪定中に、背後から鈴を鳴らすような声が聞こえた。

振り返るとあの方をそのまま少女にしたような方が、最速で執事になったルーカスと歩いてこられた。


ルーカスは黒髪の美形で、使用人の間でもよく話題にあがった。若い女性使用人が恋い焦がれることがよくあるみたいだが、庶子と分かると冷めるようだ。

お嬢様とルーカスが恋仲との噂もずっとある。美男美女で見た目だけはお似合いだという者もいる。


「は?はい!アナベルお嬢様でいらっしゃいますか」

「ええ。

マリーの庭とやらを作ったのはおまえよね?

見てみたいの」

銀髪に碧い瞳の美しいお嬢様。

お母様とよく似ておいでだが印象が違う。

マリー様は天真爛漫で素朴な、アナベル様はお若いのに妖艶だ。

『マリーの庭』

伯爵夫人の庭を作ったことがある

楽しく苦く苦しい記憶だ。

「時々しか手入れしてませんで、お見苦しいかと思います」

「見せて」

「あの、今は立ち入り禁止にして…」

「見せないと庭中にミントを撒くわ」

「お嬢様!」

「ご案内します。荒れていますので

お召し物が汚れるかもしれません」

我儘な娘か、面倒だと思った。

ミントなど撒かれたら庭はミント天国になってしまう。


しばらく歩き、立ち入り禁止用のロープを外す。

「こちらがマリー様のお庭です」

中央にミニバラのアーチの残骸、右手に花畑の跡地、奥に小さな温室、東屋と通路を挟んで左手に迷路があった。

迷路は植え込みを時々刈り込んでいたが往時の美しさはなかった。

「ここね」

お嬢様は迷路を見つめながら呟いた。

お嬢様は少し入りこの辺り?と確認され、

「不道徳なものは全て滅びますように」

と謎の祈りを捧げた

「お嬢様?」

「ここなんでしょ?不審者兼間男がお父様に殺された場所」

声も出せず、失礼にも頷いた。

マリー様、つまりアナベル様のお母様は一目惚れされたため、伯爵様に婚約者と引き裂かれ、諦めきれずにこの迷路で密会を重ねていた。

彼は不審者として始末され、マリー様は出産で命を落とされた。

「元婚約者だろうが間男には違いないわ。

おまえは、浮気の手伝いをしたのね」 

「奥様に、命令されまして」

「そのせいでお父様はおかしくなり、いえ、もともとおかしかったのかもしれないのだけれど。少なくともわたくしは大変な思いをした」

「申し訳、ございません」


傷や内出血だらけの幼いアナベル様が、庭の隅で泣かれているのを何度もお見かけした。

旦那様の虐待を知っているものもいたが、皆見ないふりをした。


旦那様は嫁いできたマリー様に、庭を好きにさせるほどに愛していらした。

旦那様は調和のとれた庭を好まれたのに、マリー様の野山のような花畑を作るのを許した。

お茶会の目玉に迷路を作るようせがまれたが、それは庭の死角を増やし恋人と密会するためだった。

アナベル様の父親が旦那様だという証明はできない。

国教は婚姻関係を重要視し、庶子の立場は弱い。

マリー様を愛する、敬虔な国教徒の旦那様は許せなかったのだろう。

しかもご出産で亡くなられたので負の感情は全てアナベル様に向かう。


「おまえ、お母様から口止め料を受け取ったわね」

「どうして…」

「お母様、お金のことは全て記録する性格だったみたい。平民の家が建つくらいの金額ね」

「あっあの、いただいて何が悪いのですか?」

「おまえの態度は先程から不快だわ。見下すような視線ね。」

「そ、そのようなことは」

父親のはっきりしない娘と、庶子の執事。

我々のような平民より下ではないのか?

「ここにきて、おまえと話したら少しは許せるかと思ったのだけれど無理そう。

ルーカス、あれを倉庫から持ってきて」

「お嬢様、しかしそれは」

「ルーカス!」

「分かりました。トーマスさん、すみません」

ルーカスは走ってどこかに行き、しばらくして大きく重そうな袋を持ってきた。

これは、塩!!

まて、まさか。

「おまえはお母様に逆らえなかったのね?

だったらルーカスもわたくしに逆らえない。

ルーカス、この辺一帯にお願い」

ルーカスは苦々しい顔で塩をまきはじめた。

「やめてくれ!土が死んでしまう」

塩など撒かれたら、あと数年は何も育たない。

「こんな庭、なければいいのよ」


涙を流す私を見て、お嬢様はそれはそれは美しい微笑みを浮かべた。

「わたくしも苦しかったのよ。ふふ。

おまえ、わたくしが庭で泣いているのを

見ていたでしょう?」

ぞくっとした。気づいていたのか。

「あの頃、仮にも伯爵令嬢だったわたくしのことを、使用人達が見殺しにした。

母の不貞を使用人達に広めたのはおまえね」

「わ、わ、私とは限らないでしょう」

「当時から居た使用人達に聞いたの。

噂を誰から聞いたか。

おまえにたどりついたわ。

もちろん、昔の事だから違うこともあるかもしれない」

面白い噂を提供したら盛りあがる。

本当のことだ。何が悪いのか。


ルーカスは手加減してくれたらしく、塩を撒いたのはマリーの庭がほとんどだった。

「ルーカス、手を抜いたわね」

アナベル様は子供っぽく口を尖らせた。

「この辺りに撒いたら塩がなくなったのですよ」

ルーカスは微笑んでいた。

「そんなルーカスは嫌いよ」

「それはとても困ります。何をしたら許して頂けますか?」

「ココアにマシュマロ2個」

「クッキーは?」

「甘くないやつ」

「お嬢様、目が少し赤いですよ」

「ん、ゴミが入ったの。ルーカスがとって」

恋仲だというのは本当かもしれない。


ぼんやりと二人の後ろ姿を眺めていた。

背中に汗がつたう。


次の週、10年分の横領を指摘された。

絶対バレないはずだったのに。

私はそのまま金銭犯罪者が入る

塔に連れて行かれた。

今は足に鎖をつけられ、沙汰を待っている。




お嬢様はお優しいので、浮気の手引きをしただけなら塩だけですませるつもりでした。

面白おかしく噂話にしたのが許せなかったのてす。

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