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8話 初めてのゴーレム作り

「おお、モンド。助かるよ」


 ジェローナの声に気が付いたアレイシオは手袋を脱ぎ、彼女の元へとやってくる。


「今回ご所望していた魔材は、伸縮性のある魔材に、水魔材だったわね? これくらいで足りそうかしら?」

「いや、これだけあれば充分だ。ありがとうな」


 ゴソゴソとカゴを漁り、ジェローナは魔材を次々と取り出す。

 マーシアは初めて入った工房内が新鮮で、キョロキョロと辺りを見回した。



(あ……)



 見回した先に、ジニの姿が見える。

 そういえば、彼の姿を見るのも五日ぶりだ。


(エラ様は、何をされているのかしら? 土を固めているようにも見えるけれど……)


 ジニは土で何かを成形しているようだった。

 側からだと泥遊びをしているようにも見える。マーシアは首を傾げた。


 その時、何気なくマーシアのほうに目を向けたジニが、彼女に気付いた。

 

「あれーっ! ウォルジーじゃん! 何か久しぶり!」


 二人の間には結構な距離があるが、ジニは構わずにこやかに大声でマーシアに呼びかける。

 彼の声に反応した他の開発部員も何事かとこっちを一瞥してきたので、マーシアは恥ずかしくなって目を伏せた。


「あら? 確かあの子、あなたの同期の男の子よね?」

「はい、そうです」


 ジニの声に反応したジェローナが、マーシアに問いかける。


「よかったら、少しお話ししてきてもいいわよ。今はカロンさんに魔材を渡しているだけだし」

「え? で、でも……」


 仕事の邪魔をしては悪いのではと思い、マーシアはチラッとジニのほうを見つめる。

 だが、彼は何かを察したようで、手をひらを上に向け、手招きをしてきた。

 

「では、少し行ってきます」


 マーシアは軽くお辞儀をすると、ジニのいる作業台に向かう。

 

「あははっ、来てくれた!」

「ふふっ、はい。お久しぶりですね。一体、何を作っておられるのですか?」

「これはな、【土人形(ゴーレム)】!」


 ジニはジャンッと手をかざし、土塊をマーシアに見せつける。土塊は歪な形だが、よく見ると手足や頭のような突起が作られているようだ。


「まあ! ゴーレムだなんて、随分と珍しいものをお作りになられるんですね」

「へへっ! 実は、かくかくしかじかでさ」



 ジニはマーシアに、自分がゴーレム作りをするに至った過程を事細かに説明した。



 ────



『ゴーレム??』

『ああ、そうだ』


 アレイシオは頷いた。


『何ですか、それ?』

『土で作る魔導人形のことだ。二十年ほど前まではそれなりに使ってる魔法使いもいたんだぞ。今はとんと見かけなくなっちまったがな』

『へぇー……。でも、何でそんな廃れた土人形が、俺の操作の魔法(エンピュート)と相性良さそうなんですか?』


 ジニは訝しげにアレイシオに問う。


『ゴーレムはな、眷属として使用する動く人形なんだよ。製作者の指示に従って身の回りの世話をしたり、大昔だと闘いに使われたり……。動きは鈍いが、良くも悪くも人の役に立ってきたんだ』


 アレイシオの言うことには、ジニの操作の魔法(エンピュート)が否応なしに物を動き回らせてしまうのなら、そもそも可動が前提で作られているゴーレムを製作するのにピッタリなのでは、ということだった。


『上手くいけば、お前の力でゴーレムの再ブームを巻き起こせるかもしれねぇぞ』

『やってみます!!!!』


 乗せられたジニは、二つ返事でゴーレム製作をすることになった。


(動く人形なんて、人を楽しませるに決まってるしな!)


 早くも目標の魔法道具(?)が製作出来そうで、ジニも心が弾んでいた。



 そんなわけで、現在ジニはゴーレムを作っているということなのである。


 

 ────



「それで土を捏ねていたのですね。ゴーレムはどれくらいの大きさになるんですか?」


 土を捏ねてゴーレムの体を成形しているジニを見て、マーシアは彼に尋ねる。


「うーん、大体三十センチくらいの高さかなぁ?」

「あら、凄く小さなゴーレムなんですね」

 

 マーシアは目を丸くした。

 幼い頃に読んだ絵本に描かれていたゴーレムは大人の男性をも遥かに凌ぐ巨躯で、幼心に怖いと思った記憶があったからだ。


「『今の時代、デカ過ぎると外で使う時に車とか電車にぶつかって危ねぇから、小型のゴーレムがいいんじゃないか?』ってカロンさんに言われてさー。だから、小さめの作ってんの」

「そうだったのですか。うふふっ、それくらいの大きさですと、より親しみやすくて可愛いかもしれないですね」

「だといいけど! ゴーレム再燃させるんだったら、親しんでもらえなきゃ意味ねぇもんな」


 ジニはタオルで汗を拭いながらケラケラと笑った。



「ウォルジーさーん! 次は魔法服開発部に魔材を持っていくわよー!」



 ジェローナが遠くからマーシアを呼ぶ声が聞こえる。


「あら……では私、そろそろ行きますね」

「おうっ! ……あっ、ちょっと待て! 一個聞き忘れてた」

「? はい、何でしょう?」


 ジニは去ろうとしたマーシアを慌てて引き留めた。


「魔材調達どうだった?」


 ジニはニッコリと興味津々な顔で、最後にマーシアにそう尋ねた。


「ええ、学ぶことがたくさんあって、とても楽しかったです! ワニ肉も美味しかったですし」

「ワニ肉?!」


 もっと詳しく話したいのは山々だが、向こうへ戻らないとという焦りから、マーシアはジニに簡潔に感想を述べた。

 

「また今度お話しいたしますね。では、エラ様。ゴーレム作り頑張ってください!」

「おお、ありがと……」


 マーシアはニコリと笑うと、小走りでジェローナの元へと去っていった。



(……何だ、ワニ肉って……)



 ジニは只々、気になる謎を残される。




 ****




「よしっ、結構出来てきた!」


 ジニは手を叩き、付いた泥を払う。

 あの後数時間かけ、ゴーレムの体の成形を行っていた。


 さほど大きくないうえに、今のところ使用した材料も黒土粘土のみ。人形を作る作業も意外と楽しく、気が付けば夢中になって四体ものゴーレムを作り上げていた。


「おお、エラ。もうそんなに作ったのか」


 ジニの様子を見にきたアレイシオは、横たわったゴーレムを見て驚きの声を上げる。


「カロンさんっ! 俺、ゴーレムの体作りの才能あるかも!」


 ジニは得意げにピースサインを掲げた。


「そうか。やはりお前と親和性があるんだな」

「俺とゴーレムは結ばれる運命だったんですね! で、さてさて、この次は?」


 ジニは【やさしく解説! ゴーレムづくり】と書かれた本をめくり、次の工程を確認する。


「えーと……。『ゴーレムの体を作ったら、次に"ようひし"を用意し、真実の魔法(エメティス)の呪文を書きます』か。ようひしって何だ?」


 謎の単語に、ジニは首を捻る。


「"羊皮紙"だ? それなら、倉庫にあんじゃねぇか?」

「マジッ?! カロンさん知ってんの?!」

「ああ」


 ジニはアレイシオとともに工房の外にある倉庫へ行き、羊皮紙とやらを出してもらった。


「ほらよ」

「ありがとうございます!」


 早速工房へ戻り、作業を再開する。


 広げてみた羊皮紙は、何も書かれていない海賊の宝の地図のようだった。とりあえず、ゴーレムの大きさに合わせて羊皮紙を小さめに切り、呪文を書く。


「書いた!! で、お次は?」


 ジニは本のページをめくる。



『羊皮紙に呪文が書けたら、今度は羊皮紙に製作者の"血"を染み込ませます』



「………………」



 見間違えた。

 そう思い、ジニは目を瞬かせた後、もう一度記述をよくよく確認する。



『"血"を染み込ませます』



「…………〜〜ッ!?!?!?」


 

 全然見間違えていなかった。

 しっかりドドンと記載されている。


「カロンさんカロンさんカロンさんっ!!!!」

「どうしたっ!?」

「血とか言ってる!! ここここれ、ここ!! 血とか言ってる〜〜ッ!!!!」


 ジニはワンワン取り乱しながらアレイシオに記述を見せた。


「あ、そうか。ゴーレム作るのに必要不可欠なんだよな、血」

「わ゛ーーーーっ!!!!」


 アレイシオにアッサリ言い切られ、ジニは卒倒しかける。


「針でちょっと指に穴を開ければいいんじゃないか?」

「ヤダッ!! 痛いのヤダッ!!」


 ブンブン激しく首を振り、ジニは全力否定する。


「カサブタとか出来てないのか?」

「引っ剥がせって言うんですか?!」


 しつけのなっていない犬の如く吠えるジニを見て、アレイシオは溜め息を吐いた。


「じゃあ、()()()()()()ないか」

「へっ……?!」


 そう言うと、アレイシオはジニをがっしり掴んで外に出る。そして、彼を社用車へ放り込んだ。


「何何何何?!?! ど、どこ連れてくんですか?!?!」

「いいから黙ってろ」


 アレイシオは車を発進させると、道を猛スピードでかっ飛ばす。



「採血をご希望ですか?」

「はい、こっちの若いのが」

「はーい。では、こちらへどうぞー」

「ちょっと?!?!」



 ジニは問答無用で病院の採血室に連れていかれ、そのまま椅子にドカリと座らされる。

 


「チクッとします」

「びーーーーッ!!!!」


 ……………

 …………

 ………

 ……

 …



 ──ガチャ。



 数分後、ジニが腕を揉みながら採血室から出てきた。



「終わったか」

「終わったかじゃねぇわ!!!!」



 この後医師に理由を言って、無事にジニの血は手に入れることが出来た。

 


「戻ったぞ!!」



 工房に戻るや否や、ジニは羊皮紙に自身の血液を垂らし、ゴーレムの額に押し込む。


「よしっ!! これで後は何をすりゃいいんだ?!」


 息を荒げてページをめくる。

 

『羊皮紙の埋め込みが完了したら、ゴーレムの体の表面が乾くまで乾燥させましょう。乾燥が終わったら、顔料などでゴーレムに表情を描いてあげるのもグッド。最後に火の魔法(エファル)でゴーレムを軽く炙り、製作者が合図を送ると、ゴーレムは目を覚まします。※操作の魔法(エンピュート)を使用すると、よりゴーレムの動作が滑らかになります』


「ほうほう、なるほどな」


 次のページには乾燥期間の目安が書かれている。ジニの作った大きさのものであれば、一週間もかからなそうだ。



 すぐさまジニは工房の周りから日当たりの良い場所を見つけ出し、布を張った金網の上にゴーレムを寝かせた。


 これにてひとまず、今出来る工程は完了した。

 あとは毎日乾燥具合を見ていけばいい。



「よーし、これであと少しか」



 ジニは完成後のゴーレムを思い浮かべる。


 小さくてコロコロ動く、可愛いゴーレム。

 そんなの、再ブーム待ったなしである。

 

「あははっ、楽しみだな!」


 ジニは笑みを浮かべて工房に向かって踵を返すのであった。



 ──これから起こる大騒動も知らずに。

 

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