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33話(72話) マーシアの想い


 ****




「ねぇ、君。こんなところに座っちゃってさ。あっちで踊らないの?」

「……えっ?」



 ジニがカウンターへ向かってからすぐ。

 マーシアは突然二人組の男性に声をかけられ、おずおずと声の先を見上げた。


(この方達は……?)


 どちらともシャンとしたスーツに身を包んでおり、清潔感溢れる身なりをしている。

 片方は金髪の七三ヘアの男性で、もう片方は整髪剤(ポマード)で艶めく茶髪が特徴の男性。

 一言で彼らを表すのなら、爽やかという言葉が最も適切だろう。


 だが──。


「……はい。今、同伴の方が飲み物を取りに行ってくださっているんです。ですので、彼が戻られてから、ダンスを再開しようと……」


 二人は見てくれこそ優男だが、マーシアには自分を見つめる彼らの瞳に、凍てつくような冷たい光が宿っているように思えた。

 思わず椅子から立ち上がると、マーシアは身体を竦める。


「ふーん、そうかぁ。実は僕達、少し前から君のこと見てたんだ。何て清楚で品のありそうな子なんだろう、って……。そして、()()()言うことを聞いてくれて、実に従順そうだなぁ、って……」

「っ……!」


 ふいに、金髪の男がマーシアの首筋に手を伸ばす。彼女は絶句し、咄嗟に身をそらした。


「ははは、怖がらなくていいよ。僕達、大人しい子大好きだから」

「……っ、あ、あのっ……。そ、そろそろ彼が戻ってくる頃ですので……。わ、私……失礼しないと……」


 身の危険を感じ、マーシアは恐怖から、人混みの中へ逃げ出そうとした。


「怖がらなくてもいいって言ってるだろう」

「……!」


 だが、茶髪の男に壁際へと追いやられ、マーシアは逃げ道を失う。


「戻ってくる彼ってのは、あれだろ? 派手な髪色した、学のない軽薄そうな男。あんなヤツ、君には似合わないよ」

「そうそう。出自も大したことなさそうだし、とてもじゃないが釣り合っているように見えない。君には、僕達のような美丈夫がお似合いさ」

「……っ! なっ……!」


 ジニを嘲笑するかのような二人の発言に、マーシアは頭に血が上る感覚を覚える。


「そんな酷いこと、おっしゃらないで……!」

「……はぁ?」


 その一瞬、マーシアは恐怖を忘れた。

 ただ、自分の慕う相手を馬鹿にする彼らが許せず、込み上げた怒りが口を衝いて口から溢れた。


「……彼は、確かに調子の良い方ですし、お勉強も苦手かもしれません。ですが、彼はいつだって全力です。たとえ挫けることがあっても目標に向かって全力で励み、時には体調を崩し、動くことすら出来ない者を全力で助けてくれる。そんなことが出来る、素敵な方なんです……。で、ですから、彼のことを何も知らずにそんなことをおっしゃるのは、やめてください……!」


 ジニの長所も短所も、これまでたくさん見てきた。だからこそ、彼のことが大好きなのだ。

 マーシアは声を震わし、二人に訴える。


「……ふーん……」


 マーシアを見つめる二人の瞳は、冷然としたものに変わる。

 そして、金髪の男はやおらに口を開いた。

 

「……口答えする子、嫌いなんだよな」

「……! やっ……!」


 そう言うや否や、彼はマーシアの両腕を力強くで押さえ、悪意に満ちた鋭い眼光でマーシアを睨む。


「もういい、手順を踏むのも面倒だ。おい、コイツ連れて出るぞ。生意気な口聞いたこと、後悔させてやる」

「ああ、そうだな」

「いや……っ! お、お願いです……! やめてください……!」


 マーシアは腕を振り解こうとするが、男の力には敵わず、より強く掴まれる。


 周りに助けを求めようにも、皆は音楽と踊りに夢中でこちらに気付く様子はない。

 さらには恐怖で頭も回らず、抵抗出来そうな魔法を使う余裕もない。


「さっ、ゆっくりと楽しもうな。お嬢さん」

「……!」


 ニタリと口角を上げる二人の表情。

 そして、この後自分に待ち受ける恐ろしい運命に戦慄し、マーシアは固く目を瞑った。

 


「──わ゛あっ、何だッ!?」


「……?!」

 


 だが、次の瞬間。

 暗闇の向こうで二人が突然叫びを上げた。

 驚愕したマーシアは恐る恐る瞼を開け、様子を窺う。


「!」 


 彼女の目に映ったのは、頭から液体を垂れ流し混乱する、二人の姿であった。

 彼らの頭上には、グラスが浮いている。


「くっ……! おいっ、誰だ!! 俺らに飲みもんぶっかけたヤツは!!」


 口調を荒げ、二人は怒り心頭で辺りを見回す。


「くそっ、ふざけるんじゃねぇ……! どこのどいつだ? 炙り出して痛い目みせ──……!? だああああ゛ッ!!!!」

「!?」


 すると、今度は騒めく衆人の間から、もの凄い勢いでドラムのバチが飛び出してきた。

 バチは茶髪の男目がけて突進し、モーラー奏法の見事なバチ捌きで、彼の頭を連打しまくる。


「なっ、何なんだ今度は──……って!? ぎゃああああ゛ッ!!!!」


 金髪の男は、同じく飛び出してきたトロンボーンによるスライド菅の凄まじいスライドパワーに巻き込まれ、悲鳴を上げた。

 

 マーシアは呆気に取られながらも、楽器達の見覚えある挙動に、これが彼の仕業だと確信する。



(エラ様……!)



「うっ、ぐぐ……! い、痛ぇ……!」



「ウォルジー!!」

 

 

 楽器の猛攻に遭いもがく男達の前に、ジニが姿を現した。

 彼はマーシアを目で捉えると、一目散に彼女の元へ駆け寄る。


「お前ら……ッ!! ウォルジーに何してくれてんだよ!!」


 マーシア庇うように彼女の前に立つと、ジニは怒りと気迫に満ちた表情で、床で悶える二人を見下す。


「はん……っ! 何って、いかにも従えやすそうな女だったから、食ってやるつもりだったんだよ。お前のおかげで、食い損ねちまったが──あいだだだッ!! おい、やめっ……──うがああぁッ!!」


 金髪の男が供述を終える前に、ジニは操作の魔法(エンピュート)で操ったトランペットのベルを、彼の頭にグリグリとねじ込む。


「ふざけんな!! そんなくだらねぇ理由で、ウォルジーを襲おうとしやがって……!!」

「ッ?! おっ、おい……!? ちょっ、何しやがる!?」


 ジニは歯を食いしばり、胸の内から沸き出る憤怒を爆発させると、()()()()に向かって操作の魔法(エンピュート)をかけた。

 操作の魔法(エンピュート)がかかったそれは、重い体を左右に揺らし、貫禄たっぷりにドシリとジニの元までやってくる。



「お前らみてぇな節操クソガバ野郎は、コイツが骨も残さず食ってやるよ!! おいっ!! やっちまえ!!」


「ワ゛ーーーーッ!!!!」  



 男二人は悲鳴を上げ、それの大きな口の中に飲み込まれた。

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