28話(67話) 流行りのワンピース
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「へぇ、エラ君と……! それで、ワンピースを探してると……。いいじゃん、いいじゃん!」
自分一人で似合うワンピースを見つけられるかが不安だったため、マーシアは思い切ってアデルに相談をしてみた。
アデルはいつも、流行りを取り入れたお洒落な服装で出勤している。しかも、服飾に携わる仕事をしているときた。
彼女であれば、ファッションのことならお手のものと踏んだのだ。
「私、流行りの服大好き! 今日の帰り、一緒に服屋さんに行って探してあげるよ!」
「うふふ、ありがとうございます」
マーシアの予想は的中。
アデルは嬉々として、友の申し出を受け入れた。
「──ねぇ、マーシア! こんなのはどう!?」
そうして街の洒落た服屋に着いて早々、アデルが提示してきたのは、ヒラヒラとしたフリンジが目を引く光沢をまとったピンク色のワンピースだった。
「そ、そうですね……。出来れば、もう少し控えめなものがあると、そちらのほうが……」
掲げられた華美なワンピースは、大胆にも胸元が大きく開いている上、着れば確実に膝下どころでは済まない短い着丈であることが見て取れる。
「そう? じゃ、こっちは?」
次にアデルが提示したのは、ビーズがあしらわれたスパンコール素材の真っ黒なワンピース。
丈は、やはり膝上である。
胸元も、言うまでもない。
「…………」
「どう? 黒いから、さっきのより落ち着いてるでしょう?」
「ア、アデル様……。実は、エラ様からダンスをする際の服装をお聞きしたのですが、何でも膝下ほどの長さのワンピースを着用されている方が多いそうで……」
マーシアがおずおずとそう言うと、アデルはチッチッと人差し指を横に振った。
「それは大方、エラ君の地元のボールルームとか、そういうところでのファッションでしょう? けど、マーシア! あなたは都会の電飾煌めく華やかなボールルームに踊りにいくんだよ?! そんな場に相応しい都会女性のダンスファッションは、断然こっちだって!」
アデルは力説すると目を輝かせ、再びドドンと手に持ったワンピースをマーシアに突き出す。
「……アデル様のおっしゃることは理解いたしました。ですが、ですが……すみません! 私には、これは着られません!」
「え゛えっ!? な、何で?!」
アデルはガビンと口を開け、困り果てるマーシアを唖然と見つめる。
「デザインが、大胆すぎます……!」
「なあんだ、そんなこと? 都会のボールルームじゃあ、これくらい普通だって。これを着て、エラ君を悩殺しちゃいなよ」
「ののののの、悩殺……?!」
これまた大胆を浴びせられ、マーシアの目は渦巻いた。
出来ない。そんなの、出来っこない。
「で、出来ません、出来ませんん!!」
しまいには、口に出た。
「んもう! マーシアったらシャイなんだから! 分かったよ、もう少し大人しめなワンピース探してみよう」
「ううぅ……すみません……」
頬を膨らませるアデルに謝ると、マーシアは彼女と共に、再度ハンガーラックに掛かる服を手探る。
「あ、こういうのはどう?」
アデルが見つけたのは、先程よりも着丈の長い白色のドレープワンピースだった。
「この形なら足もそんなに出ないし、胸元も露出が少ないよ」
「そうですね、これならば……」
マーシアはアデルからワンピースを受け取ると、店の試着室でそれを着てみた。
「うんうん、可愛い!」
アデルに褒められるとマーシアは顔を赤くし、もう一度鏡で自分の姿を確認した。
ウエスト周りにリボンの装飾はあるが、キツくなく、思いの外ゆったりと着られる。
派手すぎず、可愛らしい華やかさを持った形状のワンピースを、マーシアはすぐに気に入った。
「アデル様。こちらのワンピース、とっても素敵です……!」
「よかった! でも、色はそれでいいの? 私が勝手に白を選んじゃったけど」
「勿論です。白い服は大好きで、普段からよく着ていますから」
「うーん……」
マーシアは大満足で返事をするが、対しアデルは、何かを考えるように口元に指を当てる。
「確かに、マーシアよく白着てるよね……。ねぇ、だったらさ。ここは思い切って、普段着ない色に挑戦してみてもいいんじゃない?」
「ほ、他の色、ですか……」
アデルにそう言われ、マーシアは少し躊躇う。
安心安定の白以外だと、自分は寒色系の服を選びがちだ。
となると、赤色やオレンジ色など、正反対の暖色系を試してみるべきなのか。だが、似合うかどうか分からない。
「いつもと違う自分を、エラ君に見せてあげたくないの?」
「……ッ!!」
アデルに艶っぽい声で囁かれ、マーシアはドキリと心臓を高鳴らせる。
(そうしたら、またエラ様に褒めていただけるのかしら……)
そしてまた、似合ってると言ってくれるだろうか。
ちょっとした邪な気持ちが、マーシアの心を強く揺れ動かした。
「分かりました! 気になる色を選んでみます!」
「ふふっ、そうこなくっちゃ!」
マーシアはアデルに選んでもらったワンピースを参考に、新たな色を求めることにした。
さすがとも言うべきか、流行りのワンピースは似た形状のものがたくさん置いてある。
「あっ……」
色とりどりなその中から、マーシアが目を奪われたのは、山吹色のワンピースだった。
裾と襟元に赤い花の刺繍が施された、秋の訪れを感じさせるデザインだ。
ボールルームへ行く頃には九月に突入しているので、時期的にもちょうどいい。
マーシアはもう一度試着室へ向かうと、早速秋色のワンピースを着用し、もう一度アデルに見てもらう。
「わあっ、いい! マーシア、明るい色も似合うじゃない!」
「ほ、本当ですか……?」
「うん!」
ニコニコとしたアデルの表情にすっかり安心したマーシアは、顔を綻ばせる。
「こちらのワンピース、購入していきます!」
その後、アデルの助言により、マーシアはボルドー色のリボンが付いた黒茶色のクロシェハットと、羽織り用の白いストールを一緒に購入した。
「アデル様。今日はお付き合いいただき、本当にありがとうございました」
「いいの、いいの! 私もついでに服買えたから、ラッキーだったし!」
アデルは、これまた膝丈の短い紺色のワンピースを選び、ちゃっかりと購入していた。
今度、ファビオと出かける時に着てみるつもりらしい。
「こんなの着たら、きっと『そんなに足出さないで……』って言われちゃうだろうけどね!」
ファビオの声真似をし、アデルはきゃらきゃらと笑う。
その時、ふと二人の現在の関係性が気になったマーシアはそれとなく彼女に聞いてみたが、上手いこと質問をかわされてしまった。
その様子では、まだ友達以上には発展していないようである。
「じゃあ、それ着て楽しんでおいでね!」
「はい。では、アデル様、お気をつけて」
アデルと別れ、マーシアは手提げ袋を握り、ホクホクとした気持ちで帰路につく。
(早く、土曜日にならないかしら……)
夜空に星が舞う。
それはまるで、今のマーシアの心情を映すかのように煌めき、そして瞬いていた。
年内最後の投稿です。
次回更新は、年明け2026年1月3日になります!
皆様、良いお年をお迎えください。




