11話(50話) 潮風に舞う
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程なくして、二人はブルスバリー湾にある港へ到着した。
「海だーーッ!!」
久しぶりに見た海に興奮し、ジニは大絶叫する。
「ここから眺める海が、とても綺麗なんです。タンゴイへ行く際に発見したのですが、あの日はバタバタしていて、じっくりと見ることが出来なかったので……」
「じゃ、今日はゆっくり見れるな。いやー、海だ海だ! 出来るもんなら、海水浴とかしてみてぇな!」
「今の時期、流行っているみたいですからね。うふふ。泳ぐのは苦手ですが、水着は涼しくて気持ちがよさそうです」
「なっ! 水着いいよな! 水着……みず、ぎ…………」
大胆に足を露出した、膝上ワンピースタイプの水着を着るマーシア。
そんな光景がボンッと頭に浮かんでしまい、ジニは一瞬でフリーズする。
「……エラ様、エラ様?」
「…………違う!! 違うのおおっ!!!!」
「何がですか?!」
顔を真っ赤にしながら何かを全力否定するジニに、マーシアは唖然とした表情を向けることしか出来なかった。
「──落ち着きましたか?」
「はい、とても……」
大いなる海は、荒ぶる心をも包み込む。
ありがとう、海。ジニは海に深く感謝した。
「遠くに、船の影がたくさん見えますね。どこか外国へ向かっているのでしょうか」
「かもな。それこそ、ウォルジーが行ったタンゴイに向かってる船だってあるかもしんないぞ?」
「ふふ。そう思うと、どんなに離れた国でも、必ず海が繋いでくれているのですね。何だか、不思議……」
そして、二人揃って海沿いに設置された手すりにもたれかかり、海を眺める。
とても穏やかな時間だった。
揺蕩う波の音に、空に歌う鴎の歌。
時折、汽笛を運ぶ潮風が、海に見惚れる二人の肌を優しく撫ぜる。
「……あっ、そうだ! ウォルジー、これ!」
しばらくぼうっとしていると、ふいにジニが口を開く。
彼はガサゴソと鞄を探ると、先程折り紙で作ったツルとトンボを取り出した。
「よし。上手いこと隙間に入れてたから、壊れてないな」
「?」
そう言ってジニは折り紙をしっかりと掴むと、マーシアのほうを向く。
「ウォルジー、ちょっとこれに浮遊の魔法かけてくれねぇか?」
「は、はい」
言われるがまま、マーシアは二つの折り紙に浮遊の魔法をかけた。
折り紙は潮風に舞い、プカプカと浮き始めた。放っておくとそのまま風に流されてしまいそうなので、上手く調整し、その場に留まらせる。
「これで、よろしいですか?」
一体、ジニはこれから何をしようというのか。マーシアは頭に疑問符を浮かべ、彼に問いかける。
「ああ、サンキュー! じゃ、こっから俺の出番!」
ジニは気合い満点の顔付きで、浮遊する折り紙に手をかざした。
太陽に照らされた指輪が、キラリと光る。
「……わあっ!」
目の前に生み出された光景に、マーシアは思わず感嘆の声を上げた。
ジニの操作の魔法をまとい、二つの折り紙が羽を羽ばたかせたのだ。
空を飛べるのが嬉しいのか、ツルもトンボも、すいすいと気持ち良さげに二人の周りを飛び回る。
「どう? これが、内緒にしてたことのネタばらし! コイツらずっと空飛びたそうにしてたからさ、飛ばせてやったら喜ぶだろうなーって思って!」
「とても素敵です……。どちらも、あんなに楽しそうに空を飛んで……」
高く飛んだと思えば急降下をし、かと思えば
ジニの頭に止まったり。
その様子を見つめ、マーシアは目を細める。
「エラ様……。エラ様は本当にいつだって、人を明るく、そして楽しくさせてくださいますね」
「へっ?! な、何だよいきなり! 嬉しいけど!」
「うふふ」
いたずらげに放たれたマーシアの言葉に、ジニは顔を赤らめた。
「あーっ! すっごーい!」
「んっ?」
その時、ふいに子供の声が聞こえてきた。
「ねぇっ、お兄さんにお姉さん! なんでその紙、空をとんでるの?」
一人の少女と二人の少年が、折り紙目がけて駆け寄ってきた。三人とも五、六歳くらいだろうか。
ジニとマーシアは一旦それぞれの魔法を解除し、子供らの相手をすることにする。
「今のはな、魔法を使って飛ばしてたんだ。何だ、お前ら。魔法使いじゃない感じか?」
「うん、ちがうよ。私たち、みーんなふつうの人間!」
ジニの質問に、少年二人の前に立つ少女は、腰に手を置きツンと答えた。気が強そうな子である。
「ぼく、まほう見るのはじめてかも。いや、げんみつにはまほう道具を使ったことはあるんだけど、あれがまほうなのかと言われると、ちょっとぎもんをていしちゃうし」
「わかるわかる。さっこんのまほう使いがまほう道具にじつようせいばかり求めるから、かんじんなまほう本来のロマンがうすれてる気がするんだよね」
「都会の子供、語彙力高ぇな……」
さすが、シティボーイにシティガール。
だがそれよりも、少年らの気になる意見にジニは眉を寄せた。
「ところで、今言ったことってどういう意味だ?」
「そのままさ。さいきんのまほう道具には、ロマンが足りないんだ」
「ロマン……」
最近というと、先日ハイネ・カンパニーでは【水垢ハジキーノ】と名付けられた絶対にシンクの水垢を弾く液体が開発されたり、その前だと、魔法服開発部からは着ると虫を寄せ付けない服が商品化されたりしている。
ちなみに、スーパー☆チャッピーちゃんのネーミングはダメで水垢ハジキーノが通った理由は、ジニにも分からない。
「……確かに、ちょっと面白味がねぇなぁ」
「でしょー?」
魔法使い側の自分は特に意識もしていなかったが、改めて考えるとどっちの部署も、実用性や利便性重視の魔法道具ばかり開発している気がする。
「お前ら。もし、使うのが楽しくなる魔法道具が開発されたら、それってやっぱり嬉しいもんか?」
「もっちろん! 家のきんこのお金ねこそぎかっさらってでも買いたいしょぞんよ!」
「そっかぁ……」
ジニは唸った。
まさか、魔法を使えない人々がそんな意見を持っているなんて、考えたこともなかった。
「ねぇ。そんなことより、お兄さんとお姉さん! さっきの紙うかべるやつ、もう一度見せて?」
「え? ああ、いいけど。ウォルジー、やれるか?」
「はい、大丈夫です。うふふ、では皆さん、いきますよ」
「はーい!」
そして二人は折り紙に再度魔法をかけ、三人の子供達の周りに浮かばせる。
「すごい、すごい! 子どもだけど、どうしんにかえった気分!」
「スイスイとんで、かわいいなぁ。紙のさいくも、いのちをあたえられるとこうもうつくしく生をおうかするんだね!」
「見て! トンボがかたに止まった! まるで、"たとえとび回る人生であろうとも、せつなにおとずれるひと時のきゅうそくをわすれてはならない"って言われてるみたい!」
「お前ら、もう少し可愛げのある喜び方しろよ!!」
都会流キャッキャを目の当たりにし、ジニは思わず声を荒げた。




