10話(49話) 見落としていた事実
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「えーと……"操作の魔法は、【基本型】と【自立型】に分かれる"。……おっ! これって!?」
ジニはパッと顔を上げ、マーシアに向かってキラッキラの目を掲げる。
「はい! きっとこれが、エラ様にとって必要なことが書かれている記述かと思われます!」
「あーー!! やったーー!!」
マーシアと共に専門書を読み進め、ようやくジニのためになりそうな頁を見つけた。
彼は両手を天に伸ばし、歓喜の声を上げる。
「"自立型とは、操る対象の物体に使用者の元来の気質を含んだ擬似的な意思を持たせ、その物体の思うように行動をさせることが出来る、大変ユニークな特殊作用を持つ、操作の魔法のことである"。……勝手にユニークとか言われてもな……」
こっちは、そのユニークさに絶賛苦悩中だというのに。ジニは渋い表情で記述にガンを飛ばす。
「"操作の魔法が自立型になることは稀であり、割合として自立型を持つ魔法使いは、感情豊かな者が多い。諸説あるが、必然的に感情が豊かであればあるほど自我の放出が多いため、その影響により、操作の魔法に主の気質が反映されやすいのではないかと言われている"」
「感情豊か……まあっ、凄い! 見事、エラ様に当てはまっています!」
「何だ。よーするに自立型は、チャーミングな奴が多いってことかよ」
どうやら、自分が自立型になることは必然的だったらしい。ジニは満更でもなさそうに、やれやれと首を振る。
「で、次が……"自立型の操作の魔法は、前述の通り、使用者による気質が反映される"。ああ、ここは前に俺が調べたところと同じか、って……んっ?!」
「!? 何か見つけました?!」
ジニは続きの記述に目を見張った。
「なになに……? "そのため、基本的に物体に表れる擬似的意思は、使用者の生き写しも同然である。だが例外として、使用者が心の成長による【精神的変化】を起こした際は、擬似的意思もそれに伴い変化する可能性がある"。……精神的、変化?」
「まあ…………」
他が何を言ってるのかよく分からないが、そこだけ何とか読み取れた。
そして、その言葉が重要な手がかりとなることは、ジニも薄らと理解出来た。
「えー?! てことは、精神を強くしろとか、そんな感じってことだよな?! じゃあ、何だ! 肉とか食べて筋肉ついた良い男になれってか?! そしたら、操作の魔法の効果が変わんのか?!」
分からないなりに頭を働かせてみるが、無念。彼の頭では、これが限界だ。
「……ふふっ、そうですね。"強くなる"という考えは、決して間違っていないと思います」
マーシアは、狼狽えるジニを見て笑みを浮かべた。
「エラ様。これはきっと、そんなに難しいことではありませんよ。だって、ここに書かれている事柄は、私達が必ず通るべきものを差していますから」
「マジぃ?!」
マーシアはジニから「天才か」と言いたげな尊敬の眼差しを浴びせられる。
「心の成長とは、誰かを思いやったり、自身の価値観を見つけたり、時に悩んだり……。言葉にすると中々難しいのですが、人として一人前になる前段階、といったところです」
「あー、なるほど……。つまり、"ザ・思春期"ってことか」
「ふふ、それと似ているかもしれません。ただ、心の成長は大人になっても続くものと思いますけれどね」
「ふーん……。まあ、そうだよな。心だ、っつってんだもんな」
分かっているような、ないような。
ジニは口を尖らせながらも、何とか理解を深めようとしている。
「エラ様。ですので現状、あなたの操作の魔法の効果が今すぐに変わるということはないです。けれど、一年後、二年後。あなたが大人になるにつれ、きっと必ず穏やかになっていく……。今は指輪の効果もありますし、その時が来ることを焦らずに待つのが一番だと思います」
「ぬぁ〜、そっかあぁ……。思ってたより気が遠いな……」
心の成長による精神的変化で、自立型の操作の魔法は変化を見せる。
新たに判明した事実。だがそれは、現状をスパッと解決出来るほど即効性のあるものではなかった。
「でも、それが一番確実に、俺の操作の魔法の攻撃性をなくせる方法ってことだよな。なら、仕方ねぇ。いつか俺、スーツが似合うカッコいい大人の男になってやるよ!」
(それは、少し違うような気が……)
やっぱり、分かっているような、ないような。
だがそれはそれとして、ジニは心の成長について最低限の理解は得られたようだった。
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想定よりも早く操作の魔法のことが分かったので、二人は魔法図書館を後にし、近くのカフェテリアで遅めの昼食を摂ることにした。
「エラ様。いつの間にか、本を読むのが楽しくなっていたのではないですか?」
フォークでスパゲッティを巻き取りながら、マーシアの瞳は楽しげにジニに笑いかける。
「あ、確かに」
言われてみると、そうだ。
最初はほんの三頁でダウンしていたのに、気が付けば夢中で操作の魔法について調べていた。
「あははっ! 俺もようやく、天才への第一歩を踏み出したってことかな!」
「ふふっ、もう。またそんなことをおっしゃって……」
あんなに気乗りのしなかった魔法図書館だが、いざ行って真面目に本に向き合えば、しっかりと楽しさを見出せた。
『どこ行ったって、最終的にはめちゃくちゃ楽しめるんだよ!』
この言葉も、真実だったようである。
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「あら……。もう、十六時なんですね……」
カフェテリアを出た後、懐中時計を見つめるマーシアはそう寂しげに呟く。
夏の空はまだまだ青く、とことん活気に満ちているが、定義としては夕方だ。
そろそろ、帰宅も考えなくてはいけない。
マーシアの心が、チクリと痛む。
「ホントだ。でも、まだ十六時だろ?」
「えっ……?」
ジニは懐中時計を覗き込み、ニヤリと微笑む。
「せっかく時間が余ったんだからさ、もうちょいどっか寄ってこうぜ。それに、さっき俺が内緒にしてたことも、まだ話せてないしな」
「……はい!」
数秒前まで憂えていたマーシアの顔は、たちまち笑顔に包まれた。
まだ、彼と一緒に過ごせる。
それだけで、心の痛みはどこかへ吹き飛んだ。
「ウォルジー、この辺でどっか行きたいところある? 俺、ブルスバリーは全然詳しくねぇからさ。ウォルジーの行きたいところ行こ?」
「まあ、よろしいのですか? うーん、そうですね……」
行きたいところ。
マーシアが考え込んでいると、海のほうから勇壮な汽笛の音が聞こえてきた。
「エラ様。でしたら私、港へ行きたいです」
「おっ、いいじゃん! 行こ行こ!」




